取り合えずだ。
疲れたとずるずると壁に凭れるとぱかりと頭を叩かれた。
痛い。すごく痛い。一応王さまよ、女王さまよ。と言ったらもう一発ぽかりと叩かれた。
「桃鈴。少しは労わって」
「とっとと起きて、早く歩いて下さいまし。まだまだ仕事がいっぱいあります」
「うー…服脱いでいい?」
「私だって脱ぎたいのっ」
「自国だけだったらあの手この手で行くんだけれども…流石に他国には見せられないわよね」
「あら、恥じらいなんてあったの」
「酷い…どこが慈愛の生き物なのよ」
「全体が」
「馬鹿桃鈴っ」
「馬鹿っ!!!」
長い着物に悪戦苦闘していたら隙をついて桃鈴が乗ってくる。
ぐえっという声が出た。仕方ない。胃の上だもの。
ギャーギャーいっていたら
本気でぽかりとやられた。
痛い。それ以上に
「主上」
「「ひっ」」
「台輔まで」
「冢宰…別にサボっていたわけではないのよ」
「そうよ」
「では何をしていたのですか?」
「えーと」
「きゅっ休憩」
「ばっ!!!それはサボりでしょ」
「早く立てってとっとと挨拶に行きなさいっ!!!」
「「はいっ」」
これはないだろうと思うが冢宰の李鵬は怖い。怖すぎる。
すぐに手が出る。
傍から見たらいい男なのにと以前言ったらにこにこ笑いながら巧州国全史を暗記させられた。
にこにこ笑いながら問題を言うこの男には二度と逆らわないと心決めたのだ。
パタパタと走っていたら、柱の陰で見慣れた奴を見つける。利広だっ!!!
このストレス…こいつではらしてやろう。
桃鈴と二人で顔を見合せてにっこりとわらう。
(同じ事考えていたわね)
「「り〜こ〜う〜っ!!!」」
「うわっ」
「久しぶりね」
「塙王っ重い。上から下りてよ」
「は?聞いた」
「聞きましてよ、桃鈴」
「擽りの刑だね」
「そうでございますね桃鈴様っ」
「うわっちょっと」
「わぁははは!!!良いではないかよいでは…ない…か?」
2人で利広に飛びかかって上に乗ったまでは良かった。いつものことだ。
でも、完全に忘れてた。
視線を感じる。ばっと見れば赤毛の女王と黒髪の王と桃鈴位の金髪の子供(明らかに麒麟っぽ い)がすごい顔してこちらを見ている。
「ねぇ、りこ…いや卓郎君殿この方々は」
「延王 尚隆陛下と延台輔、隣国景王 赤子陛下」
「ひっ」
「ははは。逃げたって無駄だよ。みんなに見てもらって良かったじゃないか」
「良くない!!!全然良くない」
「っ!!!!!!何をやっているんですっ!!!!!」
「げっ李鵬までにも見られたっ!!!殺される」
「主上っ!!!待ちなさい。逃げるなっ!!!逃げるなーーーーーーーーーー!!!」
「やー!!!」
「ははは」
「覚えておけよ。利広」
「まずそこにおなおりなさい」
「ごめんなさいーーーーーーーーー!!!」
ん?
黒髪の男
彼はどこかで…あ
「尚隆?」
「…か?」
ああ、彼も王だったのか。
しかも大国の王だ。
「御無沙汰してます。」
「いや…」
「何だ知り合い?」
「先の反乱の時に少し」
「…また他国に首を突っ込んだんですか」
「そういう顔をするな」
「言ってやってくれ陽子。俺が言ってもききゃしないんだよ」
「…お前が言うな」
にこりと笑った顔が
やっぱり尚隆だと思う。
とりあえずにこりと笑い返す。
「ど う い う こ と で す か」
「李鵬」
「説明して頂きましょうか」
「ひっ」
1時間後
「延王 尚隆陛下と延台輔、隣国景王 赤子陛下、はじめまして塙王 蒼玄。雨龍と申します。」
「…」
「ははは」
「それと卓郎君・利広。後で明嬉にいろいろ告げ口してやる」
「げ」
「…私の性格を知っているでしょ」
「ごめんごめん。つい」
「ついで私の命が消えそうだったのよ。絶対」
「っ。もう駄目だ」
「へ?」
「あはははははは」
机に伏せて景王様が笑い始める。あらら?笑われちゃったと。利広の頭を叩いてやる。
「利広。尻にひかれているな」
「全く。結婚するなら大人しい人にするよ」
「…悪かったわね」
「が大人しくないなんてっイテテ!!!ごめん」
「はぁ…もう少し猫かぶる予定だったのに。」
「ははは。今回の塙王は凄い女傑が即位したな」
「どうも」
「そう拗ねるな。これでも褒めてるんだ」
「ありがとうございます。って痛い!!!ごめんなさいっ!!!李鵬っぐりぐりしないでっ!!!背が 縮む」
「すいません延王陛下。まだ教育が行き届いておりませんで」
「いやいや。貴君が有名な李鵬か」
「有名かどうか分かりませんが。」
「我が国自慢の暴力鬼畜冢宰の李鵬で…痛いごめんなさいっ」
「口を縫いつけますよ。次は全法史を読みたいですか」
「読みたくないです。許して下さい。」
「あははははは。お腹が痛い」
「陽子がこんなに笑ってんのはじめてみたぜ」
「くくくっ。陽子の時も思ったが最近の蓬莱の女は強いし面白いな」
と言って笑われる。なんだろう。居た堪れない。
その時玉がやってきてお茶とお菓子を差し出してくれる。
玉は優しい。李鵬は鬼だけど。と思いながらにこりと微笑むと李鵬に叩かれる。
くそっ。読心術でも体得してんのかよ。
にしても、こんな事があるのだろうか?
まぁでもだ。
利広は今まで付き合いでなんとなくわかるけれども
この前の3人は予想以上にいい人そうだ。
個人的に言えば景王とは仲良くなりたい。
(まぁ。あれだ凄くを笑われてるけど)
「塙王」
「と呼んでください。」
「では私は陽子と。少しいいですか」
「何でしょうか?」
「私の友人で楽俊というものがいます。あなたが即位した事を喜んでいました。」
「そうですか。お会いしてみたいな」
「あ…その」
「?」
「半獣なのです」
「半獣?」
「御存じないか?」
「恥ずかしながら。半獣とは?」
「人の姿も獣の姿もとることが出来る人間のことだ」
「…李鵬、半獣に対する現状を言いなさい」
「「!?」」
「現状ですか?」
「明日までに全法まとめなさい。どうせ差別法でしょ?」
「はい」
「そういうのを早く出せと言っていたでしょ?」
「なかなか官が出したがりませんので」
「あなたも」
「…若干」
「そうか。では、勅命だ。明日までに用意するように」
「御意」
「あー…すいません。前王朝からの差別法や愚法が多くて。その方は今」
「あっ。私の元で働いています」
「そうですか。今度ぜひお会いしたいと。」
「伝えておきます」
「延王もご存知ですか?」
「ああ。優秀なやつだ。」
「雁に置いておきたかったんだが…時に」
「はい?」
お前は差別をどう思うと聞かれた瞬間素っ頓狂な顔をした。
(とりあえず李鵬に叩かれたくらいだから声も出ていたかもしれない)
じっと延王を見る。何を考えているのだろうか?
とりあえず「馬鹿らしい」とだけ言うとはははと笑われた。
蒼き空 悠久の夜 02
「大体愚法何ぞ良い法ならば愚法と言われませんし、差別法だって同じです。必要なものだけ 最低限あればいい。差別して治世するのは簡単だけれどもそれが良いことと言えば否だと思い ますし。理想だけで全てまかり通るほど世は平坦ではないのですがねぇ。」
「しかりだな」
「利広にもよく相談に乗ってもらっているのですが。まだまだです。雁や慶は福祉面でどうな っているのですか?」
「聞きたいか」
「はい」
「えっ延王…」
無言で立ち上がり
すっと耳元でまた後でなとあの声で囁かれる。
絶対真っ赤になったはずだ。
誤魔化すようにきっと睨んでも無駄だった。利広は目すら会わせねぇ。こんにゃろ。
「このバカ野郎が。何言ったんだ」
「いてっ」
「延台輔。あーーーーーー!!!桃鈴。使令を下げなさい」
「〜」
「ははは。大丈夫よ。台輔もありがとう。」
「すまないな。」
「ふふふ」
「っち」
(雁と縁を結べばとぶつぶつ言っている李鵬は無視しておこう)