どうやらまた外で寝ていたらしい。
というか庭の机で例の法を読んでたらいつの間にやら寝ていたらしい。
よだれを垂らしていないか腕で拭ったら大爆笑された。…誰に?





「へ?」
「すまん。あまりに面白くてな」
「なんで…あっ。そうか祝賀の後に泊まっていくことに…そうだそうだ」
「呆けたか?」
「頭が痛い。まさかあなたが王とは」
「そうか?」
「知ってたの?」
「何を」
「私が王である事を」
「抱いた事を後悔はしてないな」
「景王も」
「いや、陽子とはそんな色っぽい関係ではない。…どうした?」
「女王キラーかなぁ〜と思って」
「陽子は自分がとうすればいいのか分からないまま連れてこられた。俺に助けを求めたわけで もない。天がそうさせたんだろう」
「天…か」
「ああ。お前は自分ですべてを理解しているように動いてたからな。なんであんなところにい た?」
「岡場っていうのは情報が回ってくるから」










そういうと眉間にしわを寄せられた。
仕方がない。あの頃は本当に味方がいなかった。自分で動いた方が早い事もある。
女である事を最大限利用できる方法があるのなら私は喜んで利用する。






「そんな顔しないで」
「…」
「あなたも一緒でしょ?」
「あ?」
「この国の情報を手に入れられた?」
「…ああ」
「それは良かった。」
「…













書類から顔をあげると
真剣な顔の王がいる。
いや、真剣な男がいる。











「どうしたの?」
「辛くはないか?」
「…辛いわ。でももう戻れないじゃない。」
「ああ」
「あなたがそんなこと言うだなんて。」
「王座に座る陽子は支えてくれるものがいるが…王座に座るお前は孤独に見える。」
「ふ〜ん。流石大国の王だね。」
「…
「だから私はあなたの抱いてもらったのかもしれないわ」
「…」
「私は孤独よ。麒麟も官も支えてはくれるわ。でも、元来この国の民は海客の王を心の底では 嫌っている。特に官は長年の政治からそういう習慣が身についているわ。私は海客で、何も知 らず、この国を滅ぼしてしまう。心の底でそう思っていただろうに。でもこの数年間でやっと ここまできた。官も信じる者が出来た。でも」
「王座は孤独か?」
「王座に座っていればいいと言われるのが嫌いだったわ。籠の中の鳥のようで。人が死ぬ。早 く動けば助かるものが死んでいくのは耐えられなかった。だから我武者羅に動いたの。」
「そうか」
「王は孤独だわ。でも私は民が愛しくてたまらない」
「そうか…では聞くが」
「ん?」
「何で泣く?」








ぽろぽろと涙を零しているのはこの男と一度でも床を一緒にしてしまったからだと思う。
こういうとき
なぜこの世界に来てしまったのだろう
何故王は結婚できないのだろう
と思ってしまう。










私はこの男が好きだ。たぶん心底惚れてしまったんだと思う。
(今でも夢で時々会うくらいなのだから)







「延王」
「名前で呼べ」
「…延王」
「強情者め。…なんだ?」
「もう二度と会いたくないわ、あなたとは」
「そうか」
「ええ」











ゆらゆら
ゆらゆら…とゆらいでしまいそうで恐ろしい。


自分の死以上にこの男におぼれそうで恐ろしい。




一度でも
それこそ指の先でも触れ会えば粉々になりそうな自分が怖い。












「此処で言うことか」
「ええ」
「嫌だな。」
「我がまま言わないで」
「どちらが我がままだ。」
「私たちが王である以上」
「王だからなんだ?」
「あなたと共に生きることはできないのだから」










私は蓬莱…日本生まれだ。
世の中は目まぐるしく変わっていくし私のどんどん大人になっていくけど
根本は変わらない。







人を愛して
共に生きて
子を作って
育てながら育てられ

白髪になっても
目が聞こえなくなっても耳が聞こえなくなっても手をつなげる人とともに朽ちていく。








そういう幸せが私はとても欲しかった。







でも

王である以上、それはもう無理だ。無理なんだ。















「何?」
「先ほど言ったな?」
「ん?」
「抱いた事を後悔はしてない。と」
「…」
「王である以上婚姻は出来ない。それ以前に俺は雁の、お前は巧の王だ。」
「…延王?」
「だか感情は俺のものだ。」
「私は」
「愛してる。たぶん…お前を初めて見た時から」
「あなたみたいに強くないから…」
「いいさ。俺は勝手にするから」
「あなただってわかるでしょ?私は日本で生まれたから。自分の子供が欲しかった。主人とと もに生きて…死にたかったのに。」
「ああ。」
「あなたを愛しても一年のうちにどれだけ会える?国を守ってボロボロになってあなたに会え なくてボロボロになるの?」

「愛してる愛してる愛してる。でもだからなんだっていうの?」











私はと言おうとした瞬間、口をふさがれた。
静かに優しくキスされる。










「好きで…愛していて。相愛なんだ。」
「…」
「それがすべてだ。それだけで俺は生きていける。」
「延王?」
「悠久の時をお前がいるのなら」
「…尚隆」
「年の逢瀬が少ないのなら、その分長く生きろ。俺は…」
「っ」






駄目だ。





好きだ。好きだ










大好きだ。












背中にまわされた腕




私はそれを振り払わず
それでも彼の背に腕をまわせずにいた。














蒼き空 悠久の夜 03
















「泣くな」
「泣きたくて泣いているんじゃない」
「そうか」
「…延王」
「なんだ?」
「おやすみなさい。そして」
「…」
「さようなら」







愛してるけど愛せないの
あなたが大好きだけれども私はそんなに器用ではないから







(国を取るのか自分を取るのか…すべての国民の平和を見捨てるわけにはいかないでしょ?)