「主上」
「…ん」
「主上」
「…え?」
魘されておりましたよと女史がいう。
いつの間にか転寝をしていたらしい。嫌な夢を見た。
「」
「あらま。いらっしゃい利広」
「この間言ってた書類」
「ありがとう」
「主上。少しお休みした方が」
「大丈夫。お茶お願いしてもいい」
「はい」
パタリと閉められた扉。
目の前の利広は少し困ったように、勝手知ったるわが部屋で。いつも座る椅子に座っている。
「でだよ」
「何?」
「尚隆とどこまでいっているの?」
「ははは。俗話を」
「いやね、雁が」
「?」
「もう…だめかもね」
「……は?」
持っていた書類をぽとりと落とす。
何言ってんだ。こいつは。大体、あの大国が何故?
(あー…そういうことか)
「利広」
「ん?」
「もしそれが嘘なら目をつぶすわよ」
「はは。怖いね」
「大方、あの人に言われたんでしょ?どうにかして連れて来いって?」
「ばれてたか」
「笑えないジョークは嫌いよ。」
「は勘もいいからなぁ」
「勘とかいう問題じゃないわよ。」
「ははは。でもさ」
落とされた書類に手を置くとその上から利広の手が重なる。
何すんのというニュアンスで睨んでやると睨まないでと笑われる。
何なんだ。本当に。
「はさ。」
「ん?」
「なんで王になったの?」
「生きたいからよ」
「?」
「王のない国から来たのに何で王になったの?景王のように思うんじゃない?って言いたいん でしょ?」
「まーね」
「私も普通に女の子してたらそうだったかもしれないけど」
「けど?」
「…私はね。あの子が来てないと1週間持たなかったのよ。病気でね。」
「…そうなの?」
「生きたい。ただそれだけよ。今は死にたくないだけど」
「…」
重なった手をそっと退ける。暖かかったところが少し冷たい。
嗚呼、人肌恋しくなる。
「誰にも抱きしめられず生きてきたからね。」
「両親は?」
「さぁ」
「…」
「人肌が恋しいのよ。だから王になった。」
「ふーん。」
「利広?」
「だから抱かれたの?」
「というわけではないけど。」
「俺は?」
「…人肌恋しいだけの関係なら抱いたら終わりよ」
「…延王のように?」
「…ええ。利広」
「何?」
「私はこの国に来ていろいろ初めてのものを手に入れたわ。初めての部下、初めての半身。そ して。…初めての友」
「」
「初めて心から信じられる友が出来たの。その人を一晩の欲で失いたくないわ」
「それは…それは。」
「一生。滅びるまで。共にいて」
「…一番最高で一番聞きたくない言葉だね」
「…」
「じゃあその友に教えてくれないか」
「なに?」
「本当は好きなんだろ」
「…」
「尚隆のこと」
「うん」
「ならどうして」
「…会いたくなるから。」
「?」
「傍にいたくなるから」
「」
「…人肌が恋しくなる」
「が望むのなら」
ぎょっとした。
ぎょっとしていいはずだ。
ふと扉を見るとにやにや顔の尚隆と困った顔の李鵬がたっている。
血の気が引く音が聞こえた。絶対聞こえた。聞こえたはずだ。
とりあえず思いっきり利広を殴ってみる。
唸って蹲ろうが知ったこっちゃない。
このやろう。
「…何で」
「私がご相談したのですよ。」
「李鵬っ」
「あなたが玉座から逃げ出したり軽んじたりしたりする性格ではないことを知っていますが、 それ以上にいじっぱりっていうのを知っていますからね。」
「それが王にいう言葉?」
「では頑固者でどうです?主上の為にある言葉です。」
「…もういいわよ。」
「でだ。」
「…」
「無視とはいい度胸をしているな」
「…」
「逃げちゃだめだよ。」
「さっきの撤回。お前なんかもう友達でも何でもないわっ」
「酷いなぁ。あんな口説き文句なかなかないのに」
「…妬けるな」
「私はもう二度と会わないって言ったのよ」
「会いたいくせに」
「だから頑固だと言うのです」
「…てめぇら。」
04.私がこの国の王だということ忘れているだろ
「私はね」
「会いたいのだろ」
「…」
「素直に行ってみろ」
「とりあえずよ」
「?」
「私は逃げるわ」
「活きのいい女だ」
私は逃げる
多分不敵に笑みを浮かべている男から
この十二国の中で持っても強い王から。
(逃げきれないと知っているのに)