「というわけで、幸村よ」
「姫?」
「そいつの首ここに持ってこい」
「姫ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?」
「なんだ佐助。」
「それ、姫様が欲しがるもんじゃないって」
「あぁ?じゃあ、伊達殿」
「Ah?」
「そいつの城を落としてこい」
「てめっ。政宗様に何言ってやがる」
「じゃあ、仕方がない。私が行くか」
「姫っ!!!それだけはっ!!!!!!!!!!!!!!」
父上が討たれた。否、怪我をした程度の話だ。少々危なかっただけ。それだけの話だ。
別段明日明後日死ぬという話ではない。のになんなんだ、この男は。武田軍の一角を担う男の癖にめそめそとしやがって。と言ったら佐助がそこまでにしてやってと言ってくる。どこまでだ?と真面目に聞き返すとお願いだから少し黙っていて下さいとまで言われる。忍びの癖に。
「爺たちを呼べ。動くぞ。」
「姫様!?」
「不抜けが今動かなくてどうする。」
「ですが、お館様が」
「…まだ言うか。生きておるだろう?」
「ですが」
「それで十分だ」
そういうと爺たちが来る。私が指揮をとると言えば嫌な顔をする。なんだお前たちまで。
他国を滅ぼす気ですか?当り前だろう。やられたら倍返しが私の信条だというと頼みますからとか、御乱心とか言いやがる。
「っち」
「様っ」
「佐助。働け」
「は?」
「平和的に壊滅させればいいんだろ」
「そんなの可能なのかよ?」
「しらん。がやってみるほかないだろう」
「So crazy」
「伊達殿」
「ah?」
「そのしみったれた男を頼む」
と言った瞬間
小さな声でああと言ったのは間違いではないはずだ。
取り合えず、一国を預から身の彼ならば今しなければならないことくらい自ずとわかっているのだろう。わかっていないのはうちの幸村くらいだ。
佐助に「取り合えず立ち上がるまで手を出すな」と釘をさす。そう遠くない未来。私も父上もいなくなる日が来る。その時の為に成長してもらわないと困る。
「この国は兄様より私より。誰よりもこのまっすぐな男が継ぐべきなのだから」
「様」
「佐助よ。そうなったときお前だけでもあいつのそばにいてやってくれよ。」
「俺様も給与のいいとこに行きたいけど」
「…佐助?」
「の言うことだ。聞いてやる。」
「頼むぞ。佐助兄。」
「はいはい」
「でだ。」
「?」
「西へ行ってほしい。各国の状況を、特に元親のとこと毛利の動きを知らせろ。深追いはするな。もし元親なら早く来ないとぶっ飛ばすって伝えてくれ」
「えー。そんなの言えるの姫様だけじゃん。俺様死んじゃうよ」
「毛利なら…捕まるな」
「なんか、俺様が下手打つのが前提だよね」
「ああ。まぁ。信じているがな」
「言い方がひどくない?」
「とっとと行け」
「は〜い☆」
さてとため息をついて肩を鳴らす。目の前の障子先の方に入りますと言えばどぞとだけ帰ってきた。
「お母上様」
「、あなたが指揮をとるのですか?」
「いえ。形だけでも兄上にと」
「それがですね」
「いかが致しました?」
「あの子は出家しました」
「………………は?」
「先月です。最近見かけなかったでしょ?」
「ああ、そういえば。」
「ですから。」
「はい」
「あなたの好きなようになさい」
「はい」
「只、今は」
お母上様?と呼ぶか早いか抱きしめられるのが早いか。
只今は泣きなさいとお母上様が言う。
ありがたい。今の私の気持ちを察してくれているのだろう。
だが泣いている間はない。泣くことよりやらなければ入れない事がある。心を殺して拳を出さなければいけない事がある。…今のように。
兄様は優しい人だから逃げたのだろう。この乱世から。戦いから。鬼にならなければいけないこの運命から。
「私が男ならよかった。」
「?」
「なら誰にも心配させずに立てたものを。佐助にも心配させてしまった。」
「…」
「お母上様。私は泣いている暇なんてないのです。」
「…」
「行ってまいります。どうぞ父上のことを」
「解りました」
パタリと障子を閉める。さて、まず何をすべきか。あの者たちの動きを見届けて私は私でやるべきことをしなければならない。この国を守るために何をすべきか。
「姫様」
「なんだ右目。一緒に行かなかったのか?」
「ああ。伊達軍は解散した」
「…そうか」
「どうする?」
「国防を固める。ここにはまだ怪我人が多い。爺たちにそれを任せて私はうってでる。」
「…そうか」
「一緒に行くか」
ああとにやりと右目が笑った。
03.紅の若姫と青の隻眼
強いと思っていたがこれほどかと私ははるか頭上で戦う赤と青を見る。
うってでて正解だ。佐助も良い働きをする。帰ったら給与を上げてやらないとなと思いながら拳を振るう。
「おいおいっ!信州の鬼がで出来たのかよ」
「なんだ、西海の鬼も出てきたか」
「出て来る時を知っている奴ばっかだって事だな」
「…日輪も出てきたか」
「おっと。話している間はねぇぜ」
「そのようだな」
取り合えずだ。目の前の敵を殲滅するのが先だ。
「やられたら倍返しが我が流儀だ」
「おっかねぇな」
「だから信州の鬼なんだよ。さあさ」
「」
「我こそは武田信玄が娘、武田親衛部隊黒百合隊隊長だ。誰か我が首を盗る猛者はおらんのか」
(この世の地獄にはもうとうに慣れてしまった)