「元親…何をする」
「相変わらず色っぽさがねぇな」
「五月蠅い。殺されたいらしいな」
「血まみれのお前が何言ってんだよ」
「気にするな。返り血だ」

目の前の半裸の男は問答無用で抱きついてくる。織田軍を滅ぼしたといってもここは戦場だ。半裸め恥じらいを持てと言ったらちゃんヤラシイッと言ってきたのでイラっとした。とりあえず乳首をひねってやるとその場にうずくまる。静かになった。と思ったら次は傷だらけの幸村と伊達殿が落ちてくる。文字通り上から落ちてくる。





様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ某ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃがんぶぁりましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「御苦労」
ちゃん、それだけって酷くねぇ」
「慶ちゃんも御苦労。」
「はは。ちゃんらしい」
「伊達殿も大丈夫か?腹が開いたか」
。」




どうしたと言った瞬間強く抱きしめられる。一瞬腹を殴ろうと思ったが、血まみれになっている腹を見て思いとどまる。そこまで私も鬼ではない。がこの無体どうしてくれようかと思っていたら元親が吹っ飛ばしたので私は何もしないまま平生に戻る。


ちゃん。顔を赤らめるとかしなよ」
「五月蠅い。万年発情男と私は違うのだよ」
「ひどいなぁ。でも恋ってのはいいよ」
「そりゃどうも。」
様」
「なんだ、佐助。取り合えずあそこで破廉恥だと叫んでいった主をどうにかしろ。」
「いや、それより。あっちはどうすんの?」
「あれはほっておけ。さて帰るか」
「「」」












ぐっと肩を持たれる。右が元親。左が伊達殿。
ああ面倒だ。取り合えずなんだと聞くと誰だこいつと返される。
良く似ているこの二人。戦が終わったばかりだというのに頭痛がする。









「なにも奥州の伊達と四国の長曾我部だろ。」
「そういうこと言ってんじゃねぇよ」
「ああ、腐れ縁と客人だ」





それ以上でもそれ以下でもないよと言ったはずなのに。その均衡はあっさりと父上の言で崩壊する。













「…………………………は?」
「今回の戦後、豊臣が勢力を伸ばし始めた」
「それは存知あげます」
「それでだ。我が武田と伊達は同盟を組む」
「そこまではわかりました。で、何故私が」






あの戦が終わってひと月。この間其の伊達と闘ったぞと心の中で舌打つ。なにの何が同盟だ。
伊達との同盟。完全にこちらに有利な同盟。その代りにこちらからは









「嫁がなければならないのでしょうか?」
「軍略だ」
「…私のようなものが。ましてや、向こうは私のことを存知あげています」
「むう」
「向こう側がすんなり承諾するとは思えません。ましてや名指し。力の分散を狙っているのではないでしょうか?私より適任がいるのではないでしょうか?」
。」
「はい」
「いいですか?よく聞きなさい。」
「お母上様?」
「あなたはお館様が幸村に跡目を継がそうとお考えなのは知っていますね」
「はい」
「我が娘と夫婦にさせる予定なのも。」
「はい…あ」
「解りましたか」









私の他に一人いる娘。可愛らしくお母上様にそっくりな私の妹。その子が幸村に懸想していること、幸村も懸想していること。私をはじめとして皆が知っている。
私がいかなかったらあの子が行くのだろう。そういうものだ。だが、できればあの2人は幸せになってもらいたいわ。と以前母上がそういった事を思い出す。私もでございます。私は楽隠居でもさせて頂くか目の上の瘤になりましょうとわらていたのに。





「父上」
「なんだ」
「主命でございますか?」
「…うむ」
「解りました。私も武家の娘。」
「ではひと月後だ。」
「また…急ですね」
「時勢は急を要す」
「御意」













ただ魂が抜けた。人形のような心地だ。ばあやが心配してくれたが私は大丈夫とだけ言って山へ行くとその場から駈け出した。
















04.紅の若姫と青の隻眼












様」
「…」
「隠れん坊はやめましょうよ」
「…」
「もう見つけてますし」
「…うるさい黙れ。」














山も山。奥地に私の隠れ家がある。知っているのは佐助と私と幸村だけ。
幸村は?と聞いたら置いてきたとだけ返ってくる。手にはお茶と握り飯。腹減った?という様も変わらない。




「佐助」
「どうしたの?」
「縁談が決まった。知っているのだろう」
「あー…」
「お前は忍びだ。知ってて当然か。」
?」
「私はいらない子になってしまったのだな」
「それは違うよ。ほら腹がへったらろくな事考えないんだから。食べて食べて」
「佐助兄…」
「もー。そんな顔しない。は可愛いし、美人だし、強いから大丈夫」
「…」
「伊達の旦那も知ってるだろ?大丈夫。大事にしてくれるよ」
「そう…だろうか?」
「ん?」




所詮私たちは子供を作る道具であり人質だ。私はその片方が欠落している可能性がある。
大体、あの色男が私なんぞで満足するわけもない。といったら佐助に自分を過小評価しすぎじゃない?と言われた。過小評価じゃない。客観論だというとまぁ…ねぇと言われて何となく腹が立つ。ここは世辞でもいいから慰めろよと言ったが世辞嫌いでしょ?とお茶を出される。


「大体、旦那はのこと好きなんだから」
「あれは、興味関心だろう。私のような女は珍しいからな」
「いや…本気で言ってる?」
「本気も何も…それ以外あるまい」
(独眼竜の旦那もこりゃ骨が折れるな)
「佐助」
「ん?」
「私は邪魔なんだろうか?邪魔になったから私は他家に出されるのか?」
「本気で思ってる?」
「あの子と幸村ではなく私と幸村が相思相愛なのに他家に嫁がされると…本気でそう思うのだがな。実のところよく分からん。私が男として生まれてくればこんなことにもならないのかもしれないが。私は残念ながら女らしいからな」
…」
「邪魔で目障りならいっそのこと殺してくれた方がいい。」
「ちょっと」
「なぜあの時私を助けたのか?それは道具としてなのか…嫌なことばかり考えてしまう自分が腹立たしい。あの二方も心を痛めて下さっている。それが痛いほどわかる。一国の姫として生を受けた以上、領民より楽な暮らしをさせて頂いている以上やるべき事がある事も、それがこれなのだという事も理解しているが…」
「頭の中では納得いっていない?」
「そうだな。私はこの土地を愛している。ここを守るために生きて守るために死ぬ覚悟はある。ここから離れるなんて考えてもみなかった。」
「そっか…」













さてと腰を上げる。握り飯も食べたしお茶も飲んだ。佐助に愚痴も聞いてもらった。
これ以上考えても仕方がない。そんなことしても何も変わらない。



「佐助、帰る」
「はいはい」
「佐助」
「ん?」
「もうここで、お前と二人で話す事もなくなるのだな。」
「そー…だね」
「兄と呼ぶこともなくなるな」
「ん」
「寂しいな。」
「…」
「では行くか」
















頭をぐしゃぐしゃと数回、撫でて佐助は笑った。




幼い時によくしてくれたように。
と呼んで頭をなでる。






「もし、何かあったら」
「ん?」
「俺様が絶対助けてやるから」
「ん…」
「みんなが見てないとことかだとさ、今みたいに兄って呼んでいいから」
「うん」
「だから一人だとか、要らない子だとかいうな。」
「う…ん」
「俺様にとっても武田のみんなにとってもお前か可愛い大切な姫君なんだから…さ」












そう言われた瞬間今まで我慢していた何かがせきを切ったように溢れてきた
その何かが強がりなのか弱さなのかなんなのか私には良く分からないが、佐助にはとうに解っていた事らしい。

わんわんと子供のように泣く私を佐助はただ本当の兄のように抱きしめた。












(城に帰ったら幸村がどこかで聞いたらしくおめでとうごさいますぅぅぅぅぅぅぅとKY発言をした)
(ので、とりあえず殴っておいたのはまた別の話)