「馬子にも衣装だな」
「駄目だよ、旦那のこと七五三なんていっちゃ」
「ああ。それの方があってるな」
「佐助っ!!!姫様っ!!!」













ハハハと笑う。今日は目出度い日だ。佐助ですら忍び服ではない。私もいつもの男物の着物ではなく正装をしている。
幸村の婚約儀。私が他家に嫁ぐ前に結婚をとこの目の前の男は叫んだらしいがそりゃ無理だろ。馬鹿かと言えば某、姫様のいない祝言は嫌でござるととてもかわいい事を言ってくれる。同盟国同士なのだから祝言には行けるさといってもがんと聞かないこの男を佐助と宥め賺し今回このような形で決着した。もう一つ嬉しかったのは





「姉様」
「おやおや。こちらは可愛らしい。流石私の妹」
「わー。旦那にもったいないくらいだね」
「佐助よ、もしこのバカ者がこの子を泣かすようなことがあったら刺せ」
「了解」
「姉様っ」
「姫様っ!!!某決して泣かすようなまねは致しませぬ。」
「そうか…。一生幸せにしてやるんだな」
「御意に」
「真田様…」
「あー、やだやだ。もうのろけられたよ」
「ホントだな」
「そっ某!!!」













破廉恥でござるぅぅぅぅぅと叫ぶ馬鹿を尻目にきゅっと私の袖をつかむ可愛い妹。
大丈夫だよ。幸せにおなりと言うとはいと少し悲しげに眼を伏せる。
この子も私のいない祝言は嫌だと籠城したらしい。大人しいこの子にそこまでされて私ももう悔いはない。





「佐助よ」
「どうしたの?」
「お前の言うとおり私は愛されているのだな」
「そーだよ。今更気がついた?」
「ああ。私はこういう機微が分からない女らしい」









ハハハと笑われるとそんなことありません。と可愛らしい声が聞こえる。







「姉様は美しくて賢くてお強くて…私の憧れ…で」
「可愛いな。」
「姉様っ」
「大丈夫。私はどこへ行ってもそなたの幸せを祈っているよ。もし何かあったらこの佐助に言いなさい。例え火の中水の中私は必ずそなたの元へ馳せ参じるよ。」
「う…」
「姫様、そこらの男よりかっこよくなってどうするの」
「そうか?」
「うん。みてみなよ。小姫様顔真っ赤」
「本当だ。それより。幸村っ!!!いつまで叫んでいる。このバカ者が」
「はっ。某。」
「この子を頼むぞ。そして、この国の事も。全ての領民の平穏と幸せの為に」
「はっ。」
「そなたも。幸村を立派に支えるのだよ」
「はい」
「よしよし。これで心おきなく伊達へ行ける。」
















若い(と言っても幸村とは同じ干支の生まれだが)2人に任せれば大丈夫だろう。父上と共にこの武田を頼みましたよと言えば御意にと返ってくる。もう、この二人とも度々会えないだろう。下手すれば敵味方かあの世で会うか。それでもいい。私は確かにここで幸せだった。











「なに呆けてんだよ」
「…慶ちゃん?」
「これ個人的な贈り物。一応家柄的に敵同士だけどちゃんとは友達だから」
「そうか…で、この大層な荷物を私にどうしろと」
「持ってって。大阪で一番のとこで買ったから。化粧品に単物に。もうそんな形出来ないでしょ」
「そうだな。」
「それとこれは謙信から」
「……………返しておいてくれ」
「なんで?」
「いや、何となく。開けたら爆発するとか。毒が出てくるとかないか」
「ないない。とりあえず開けてみ」
「…お。」











どうやって一人で運んだというほどの荷物を庭先に置いて慶ちゃんが普通に現れる。まぁ、無害だから通せと言ったのは私だが手渡しされた上等な錦で包まれたものは慎重に広げる。
取り合えず何か出てこないか細心の注意を払いながらそろりと開くと白磁の肌が現れる。









「なんだ?」
「西洋の聖母だって」
「なんで私に?」
の顔に似ているって言ってたな。以前から渡そうと思っていたらしいけれど」
「近づいてこられたら私は逃げるぞ。全力で」
「だと思って俺に渡したんじゃん。で、伝言があるんだけど。聞く?」
「ああ」
『かいのうつくしきおにひめ。そなたのこうふくをこころからいのっています。せいぼごとしじあいをおうしゅうのたみに』
「あの方らしい」
「で、どうする?」
「ありがたく頂戴する。謙信公に聖母とまではならずとも自愛を持って奥州へ向かいますとお伝えしてくれ。」
「了解。で」
「ん?」
ちゃんがいなくなるから寂しくなるな」
「そうか?死ぬわけでもないだろう?」
「そりゃそうか。」
「…もう行くのか?」
「祝言を控えている女の部屋に長居は出来ないだろ?」
「そうだな」
「明後日出発だってね」
「早いだろ。急にな。」
「気をつけてな」
「誰に物を言ってる?何人たりとも邪魔はできんさ」
「そーだね」







そういうと慶ちゃんは少し悲しそうに笑った










05.紅の若姫と青の隻眼














「姫様」
「うむ」
「もうばあやはいないのですから」
「解っている。祝言には来るのだろ?」
「私ごときが行けるわけないでしょ」
「来い。来ないのなら私は祝言の席に出ないぞ」
「…無理です」
「婆や一人席に呼ぶなという器の小さい男なら私の方から願い下げだ。来い。父上にもそう伝えてあるからな」
「…しりません」
「ばあや」
様は最後まで雄々しくあらせて。ばあやは心配です。」
「ばあや」
「私だけが様を御幼少の時から存知あげております。お嫌いなものもお好きなものも全て知っておりますのに」
「ばあや。仕方がない。向こうからの唯一の申し出が誰もつれてくるなと言うことだからな。私は強すぎるのだよ。自分の身は守る。それに落ち着いたらばあやを呼び寄せる。」
「嫌です」
「ばあやは私の育ての母だからな。ばあやがいないと私はすぐに死んでただろうな」
「うぅぅ」
「大好きだよ。そなたのおかげで私はこの世の楽しみを知ったからな。だからもう無茶せず長生きしてくれ」
「はい。様の御子を抱くまでは死ぬに死ねません」
「はは。それはまた」
「大丈夫です。様」
「…」
「私が大丈夫と言っております。」
「ばあやにそう言われると何やら大丈夫な気がするな。」
「はい」
「では不死になる覚悟で待っていろ」
「はい」














そして私は明日この地から旅立つ