どうも片倉姉が右目にちくったらしい。困った女だと零したら右目に怒鳴られた。
大体でほとんど部屋に入れないのになぜ知っているのか?この兄弟は侮りがたい。
「食事をしていないとはどういうことですか」
「食べている」
「嘘をお付きになりますな。一切箸を付けておられないでしょ」
「…目ざとい姉弟め。」
「ここに嫁がれて一週間何も食べてないとは…」
「水は飲んでる。」
そんなこと言っているのではありませんと2人に叫ばれる。兄弟が。似ているなと言えばまた叫ばれる。あまり食が太くないもんでなと言えばここまでくれば話は別ですと言われる。
こんなに口うるさいのは武田にはいなかったなとぼんやりしながら説教を聞いていたらいつの間にか食事が運ばれてきて食えという。無理を言うな。
「いらん」
「何故です」
「…いらん」
「理由をおっしゃい!」
「もういいだろう。何かやることはあるか?」
「…ないです。そんな体で無理でしょ」
「では奥へ引っ込む。片倉姉も来るな。そなたが来たら頭が痛くてかなわん」
「っ!!!」
食事が欲しくないわけでもない。2.3日までは結構しんどかったがもう別段食べたいという欲求もない。このまま枯れ果てていくのも面白いかもしれんなと笑っているとどたどたと礼儀も何も知らない足音が聞こえる。汐の匂い。海の男が来たかと思いながら縁側で座っている。
別段私が出ていく必要もなかろう。なにもすべきこともなくただ日がなぼうっと過ごすのは性には合わないが仕方がない。それ以前に力ももうでない。
「っ!!!」
「ちょっ。奥方様の部屋ですよ」
「おーい。っ!!!」
「誰かっ!!!」
「五月蠅い、銀髪。片倉姉、全室の襖を開け広げろ。不誠実なことはせぬよ、この男も。もちろん私も。」
「っ。すぐにだれか呼んでまいります。お前達、奥方様の言いつけどうりになさい」
「…けっ。信用されてねぇな」
「私がな」
「あ?」
「で、どうした?殿に用ではないのか?」
「両方。…なぁ」
「なんだ?」
縁側の柱に体を預けたまま私は元親の方を見る。
なにを察したのか、この男はすぐに食べてねぇのか?と尋ねてくる。ああと答えると横に座って懐から何やら取り出して私の手の上にそれを置く。
「なんだ?」
「俺ん所の握り飯だ」
「それをどうしろと」
「それなら食べられるだろう?」
侍女たちが何やら不思議そうな顔をする。が、この男は知っているのか気が付いているのか?そんなこと私には分からない。が
「…うまそうだ。」
「茶もあるぞ」
「頂こう。」
「旨いか?」
「なんか温い」
「懐に入れていたからな」
「「様?」」
「来たか。片倉姉弟」
「なんだそれ。」
「良く2人で私を責め立てるのだよ。」
「ははは」
「はははじゃねぇっ!」
「どうして食事を。先ほどは全く」
「ああそれはだな。」
「言うな。言うとここで埋めるぞ」
「…だそうだ。」
「長曾我部の坊や!」
「俺も命が惜しい。…大体、あいつは何してんだよ。一人でこんなとこに居て。」
「さあな。執務か種まきか。そこの忠臣に聞いてみろ」
「なんだ?お前ら夫婦だろ」
「御手付きはないがな。一応夫婦だ」
「……………は?」
御馳走様と言って元親に水筒だけを返す。が素っ頓狂な顔をして手を出してくれないので一発殴る。…まだ力は戻らんか。手の方が痛い。水筒で殴るとやっと気がついたらしい。…水筒が壊れたどまぁ、気にせずにいよう。
「…なにあいつそっち系」
「違う。断じて違う」
「そりゃそうだ。趣味は種まきだからな」
「あ…ああ。そういう意味か。とりあえずに色気はないけどかなり美人だぜ、こいつ」
「色気がなくてすまなかったな」
「どうして手をつけねぇの」
「今は他に良い人がいるのだろう」
「…………は?」
「さっきから素っ頓狂な声しか出していないぞ。まぁ、私は人質だからな。仕方がないというか…こういうものだろう」
「ちょっと待て」
「…なにを待つのだ」
「お前」
「Hey!元親!」
「あぁ?!」
「人のhoneyの部屋で何してやがる」
「誰がhoneyだ。手付けてないらしいじゃねぇか。しかもそんな匂い付けてよくここに来るな」
「…shit!なんのことだよ」
「気が付いてねぇのかよ」
「政宗様…」
「小十郎までっ!」
「殿…何か御用ですか?」
「?」
「用はない」
「…元親貴様は何の用だ?」
「あっ?ああ。これ」
「なんだ?」
「お前が欲しがってたやつ。結婚祝いだ」
「……よく覚えていたな。」
「そりゃな。いらねぇ?」
「いや」
頂こうと言って少し笑った。笑みを浮かべる自体久しぶりな様な気がした
08.紅の若姫と青の隻眼
「長曾我部の坊や」
「なんだよ」
「何を知ってんだ?」
「あ?あー…なにも。考えればすぐわかっだろ?」
「?」
「あいつは以前実の親に毒盛られたの知ってるよな」
「ああ」
「そうなのですか?」
「そん時何にも食べられなくなってな。それを治したのがあのばあや。」
「だから…恩人…か」
「ああ。で今回はまたその毒でばあやが死んじまったんだろ?」
「…」
「誰が作ったのか分からない。ましてや自分が敵地だと思っている場所で食事なんてしないぜ。あいつは。どうせ水だって自分で汲んでるんだろ」
「そうなのか?」
「ええ。でも」
「あ?」
「なんであなたのは食べたのですか?あなたも敵でしょ?」
「あー…。」
「いわねぇか」
「言っていいのか?あいつには内緒にしといてくれ」
「…」
「解りました」
「昔あいつが旅に出てた時最終地だった。」
「そうなのか?」
「それだけではないでしょ?」
「…流石片倉姉弟」
「いいなさい」
「そん時俺はを愛してた。それだけだ」
「!」
「様は?」
「そいつは本人に聞いてくれ」
「…」
「それより、あいつを責め立てるな。眼が死んでる。」
「あ…ああ。」
「みてやれ、そうすれば自ずと答えはわかる。あいつは単純だからな」
「解りました。」
「あと外にほりこめ。領民に何の感情も生まなくなるぞ」
「解った」
「で、あれは大丈夫なのかよ」
「…それは」
ぺらりと言う音が部屋を占める。私は縁側で元親から贈られた本を読み続ける。
何冊あるのだろうか?本が好きという事を忘れなかったのだなとその心遣いが嬉しくこそばかった。
「」
「なんですか?殿。ご用でも」
「別に」
「目障りならやめますが」
「いや…いい。」
「なら失礼して」
「なぁ」
「何か」
「元親とは普通に話すのだな」
「あれと殿は違います」
「違うな…、そうかよ」
「何か?」
そこで会話が途絶える。ぺらりぺらり。本の音。それ以外は何も聞こえなかった。
(そしていつの間にか彼の人もいなくなっていた。)