あれから全くもって音沙汰がない。
顔を合わすけれども何もない。本当にその話題にすら触れない。
遊びだと思われたのかな?
悲しいな








……やっぱり私なんかやっちまったのか?




「何だったんだろう」
「?どうしたんです?」
「伊作ちゃん」
「はい」
「私って魅力ない?」
「…は?」








男勝りなのがいけないのかしらといったら
どこからともなく仙蔵とタカ丸君が現れて
「綺麗になりたいですか?」と尋ねてくる。
ぽかーんとしながら「そりゃまぁ」と答えたのがまずかった。
















取り合えずだ。
この状況をどうにかしてほしい。



「これでいいかなぁ」
「タカ丸君…私ね。こんなに綺麗にしてもらっても」
「あー。可愛くなったよ」
「あは…あははは。」
「で、これ着てくれれば」
「これ?派手でしょ」
「可愛いよー」
「私仕事あるし」
「私がやるからいいですよ。今日は休んで下さい」
「伊作ちゃん。」
「はーい。さん。これ着て下さい」




何のためだよ。と心底思いながらも突き出された着物を受け取ってしまう。



「仙蔵。助けて。」
「いつも袴しか着ないからな。」
「助けて〜。」
「はいはい」










仙蔵に頼んだけどさ。どうしてこう人が増えて
「化粧もう少し濃いめに」…三郎君まで。



着物ってすぐ着付け出来るんじゃないの?もう一刻は服着てるよ。何枚も着ては脱ぎしているよ。





「出来た!」
「んー。可愛い」
「別人だな」
「別人ってどういうことだよ」
「わー。見違えたよ。」



自分がどんな感じが知らないけどさ。
パタリっと扉が開いた瞬間「さん」と彼の人の声がする。







「胃…薬…。さん?」
「土井先生?」
「…どうしたんですか?」
「3人に遊ばれました。」
「あー…」
「そういや、さん今日薬とりに行くんじゃ」
「そういえば。このままいくか」
「え?!」
「土井先生どうしたんです?」
「その格好で行くんですか?」
「あー。荷物もてないから。誰か一緒に行ってもらおうか。仙蔵」
「私は荷物持ちなんてしないぞ」
「三郎君…あっ逃げた。」
「僕は無理だよ」
「そーだよねぇ。」
「私が手伝いましょうか?」
「土井先生が?」
「駄目ですか?私も教材を買いに行きますし」
「いっいえ。お願いします」









どういうことだ?
何故こんな事になったんだ。

右側に土井先生がいるし。
しかも私服だし。




わーわーわー。








さん」
「はい?」
「そこ危ないから気をつけて」
「え?」
「着物ですから。」
「わっ。動きずらいと思ったけど」
「ほらっ」
「…ありがとうございます」


た い へ ん だ



どうすればいいの。デートじゃないか。
私みたいなの…と先生とか。傍から見たら子どもと親とか…。
それはないか。あっ兄さんと妹。どうしようか。

もんもんとしながら土井先生を待つ。
私には縁のない店の前にあるお団子屋さんで待っている。
ここのお団子美味しい。あっ。駄目だこういうところが子供なんだ。











「あの…」
「はい?」
「御暇ですか?」
「は?」
「どうですか?」
「連れがいますから」
「そ…ですか」








なんださっきから。
土井先生が帰ってくるのを待っていたら何度となく
声かけられるのだけれども。正直めんどくさい。





「ねぇちゃん」
「は?」
「一緒にのまねぇか」
「嫌です。」
「はっ。気の強い姉ちゃんだ」
「ちょっ。」
「良いだろ」
「ちっ。」












動きづらい。振り払えずにいたら男が吹っ飛ばされた。
あー…可哀そうに。
誰だろう助けてくれたの。





さん大丈夫ですか」
「あー。はい」
「さぁ行きましをうか」








まてよと典型的な喧嘩言葉。
あーあー。どうすんだろう。刀まで出してきて。






「土井先生」
「怪我するからやめておけ」
「へっ」




なんだろう、このベタな展開
ベタな分、心にもベタにくる。


カッコイイ。とハートを飛ばすのは仕方ないでしょ。







「もう終わりましたよ」
「カッコイイ」
「え?」
「いっいえ!ありがとうございます。」
「さあ行きましょうか。」








と言った瞬間、人通りのない裏通りに連れ込まれる。




キスされるのかと思うほど顔が近いけど
いつもみたいに笑っていない先生の顔がドアップだ。

「へ?」
「隙がありすぎです」
「は?」
「…後は薬ですね」
「はい」
「行きましょう」
「は…い」








なんだろう。微妙に怒ってらっしゃる?
薬屋から出てきても怒ってらっしゃる?
なんで?






「怒ってます?」
「別に」
「似合ってませんよね」
「へ?」
「一緒に歩いて恥ずかしいですよねー。」
「は?」
「では私はここから一人で帰りますから」
「ちょっ」









一人で歩いて行くと
待って下さいとやってくる。なんなんだろう







「とりあえず。落ち着いて下さい」
「いえ。すいません気づかなくて」
「そういう話ではなくて」
「じゃあどういうことですか?」
「私は…」
「ごめんなさい」
「あなたが…好きだから」
「……………は?」
「嫉妬…と言えばいいんでしょうか?」
「へ?」
「…忘れて下さい」
「私が子供っぽいからとか」
「は?」
「一緒に歩いていて恥ずかしいとか」
「どうして。すごくきれいなのに」
「っ」









03.その言葉信じていいんですか?








「私」
「はい」
「あなたのこと好きです」
「はい」
「信じて下さいませんか」
「というか…私なんか」
「すごく好きです。」
「っ」
「信じて下さい」
「はい」
「良かった」
「…はい」










すっごく恥ずかしくなって俯いていたら
さんは言われる。


「…聞かなくても知っているでしょ?」
「知らないから教えてほしいです」
「敬語やめたら教えるかもしれません」

「っ」





何この破壊力。色気すごいよこの人。
と思いながら硬直していたらもう一度「」と名前を呼ばれる。







「教えて」
「う」
「さぁ。観念して」
「す…」
「ん?」
「好きです。」










そう言い終わる前にギュッと抱きしめられて



もう一度好きだよと言われて












私はただ子供のように泣いてしまった。








(化粧って泣くと取れるんですね)
(そりゃあ)
(すごい顔してるかも)
(凄く色っぽいよ。)
(っ)
(でも化粧は私の前だけにして。)
(はい)