眠たいと目をこする。いつもなら寝ている時間だから当たり前なのだけれども、今日はみんな の不運が全開になったため、今の今まで片付けに追われていた。

まず伊作ちゃんが薬箱を落として数種類の薬が混ざる。
次に数馬君が入っていた薬箱を蹴っ飛ばしてぶっ壊す。
最後に乱太郎君が薬剤の上にお茶をぶっかける。

すごい不運だ。何これ?私人生初かもしれないくらい不運だよ。といったらそうですか?とけ ろっと言われる。みんなどんだけ不運なの?と思いつつ、父上様はすごいなぁと思いながら黙 々と片付けていたわけだけれども。





「眠いな」


欠伸を噛殺して廊下を歩く。とりあえずお茶を飲んでもう寝ようと思った瞬間、聞きなれた声 が掛け声を悲惨な声たちが答えているのが聞こえる。まさか…と思いながら時期的にそんな時 期かと思いながら口が綻ぶのが分かる。

我ながら単純だと思う。
あの人の声を聞いただけでここまでウキウキするものか。
(まぁ、実質2週間ぶりだから仕方がないか)












「せっ先輩。」
「なんだ、三木ヱ門 」
「下級生が壊れ始めてますよ」
「団蔵っ!!!誰のせいだとおもっとる」
「ふぁい。」



からりと戸をあけると想像した以上の地獄絵図。
思わずうわっという声が出た。

その声に反応して団蔵君が先生と抱きついてくる。かわいいなぁ。1年は組。とりあえず両手がふさがっている から大丈夫と声だけ掛けてあげる。ふぁい。だって。可愛いっ!!!






「先輩っ」
「文次郎っ。私それ避けれないよ」
「バカタレィ。俺が外すか」
「団蔵逃げろ」
「ふぁい?」
「ちょっ。とりあえずそれしまって。」
「っち」
「(委員長容赦ないね)」
「(先生関係はね。仕方ないよ)」
「左門!!!左吉!!!」
「「ほげげ」」
「あ!文次郎。駄目よ。大丈夫?」
「で何の用だ。こんな遅くに」








不機嫌そうにパチパチとそろばんを弾く奴にため息一つついて差し入れですとお盆の上りおに ぎりとお茶を渡す。
団蔵君がわぁいといっておにぎりに手を伸ばす。可愛いよ。そのまま膝の上でおにぎりを頬張 る。にやにや笑っても仕方ないよね。よしよしと頭を撫でていると超重量級のそろばんが飛ん でくる。顔すれすれに。






「なななななな」
「団蔵。仕事しろ」
「はいっ。」
「危ないよ。」
「当てなきゃいいんだろ」
「それが彼女に対する仕打ち」
「けっ誰が彼女だ」
「あー。そんなこと言うんだ。」
「ふん」









可愛くない奴と思いつつもひょいと紙の束を見る。
すごい量だな



「左吉君これまだ?」
「はい」
「ちょい、休んどきな。1時間でも寝たら少し違うでしょ」
「え?」
「手伝ってあげる。」
、余計なことすんな。早く寝ろ」
「えー。校医としてこの子たちの姿は見過ごせないもん。」
先生ぼくたちは大丈夫です」
先生は寝て下さい」
「もーっ。可愛い」
さん、ほどほどにして下さい。」
「三木ヱ門君も少し寝な。おむすび食べて。」
「でも」






ぎろりと睨む文次郎。
こっ怖くないもん。
そういい聞かしながらホイホイとお盆を押しつける。






先生)
(三木ヱ門君どうしたの)
(嬉しいんですけど、あの人が)
(あー大丈夫。任せておいて)
(?)

「んー?」






にっこり笑っても無駄だった。三白眼。隈。怖いよ文次郎。
むしゃむしゃ食べてる団蔵君たちを庇うように座ると邪魔だとまで言われる。





「ひどい」
「ひどくない」
「文次郎も少し寝な」
「お前が寝ろ」
「えー」
「えーじゃないって勝手に何やってやがる」
「計算」
さん早ぁい」
「しかも暗算で?」
「薬作ってる時に暗算するから早いよ〜」
「「すご〜い」」
「少し黙ってろ」




何というと目の前に隈が現れる。心の中で悲鳴。びっくりした。



「寝ろ」
「や〜」

「文次郎」
「あ?」




グイッと腕を引っ張る。





あっ左門君と三木ヱ門君が良い子たちを目隠ししてくれたかな?
まっいいか。
















02.ダーリン あなたが心配なの















「ななななな」
「なが多いよ」
「何しやがるっ」
「ほら、膝枕なんて気持ちいいでしょ?」
っ」
「文次郎がいらないなら団蔵く」
「団蔵…」
「こっちに飛び火させないで下さい」
「私たちが良い子に目隠ししてるんですから」
「どーしてですかぁ」
「私たちも見たいっ」




五月蠅いと三木ヱ門君が叱って背中を向けるように1年生を座らせる。後ろからかっちりガー ドして。いいなぁ。といったらぺちりと叩かれた。






「このバカタレ」
「はいはい。」
「闘う委員会が」
「闘うのは今でなくてもいいでしょ」
「…」
「ちょっと寝て。」
「なんでだ」
「彼女として少し心配」
「っ」
「…あと、おかえり」
「あ?」
「二週間ぶりだったから。実習から帰ってきて初めて会うのよ」
「そうだったか?」
「はぁ…」
「…」
「あなたらしいけど。…文次郎?」





寝ましたか?と三木ヱ門君の声。うんと私が答えるとため息。

「寝てないみたいでしたからね」
「鍛錬馬鹿だから」
「先輩らしいけど。」
「とりあえずみんなも寝て。起きたら交代。私は結構休めるから」
「はい。お言葉に甘えて」
「「「先生おやすみなさい」」」
「はいおやすみ」











(なんか先生がお母さんで先輩がお父さんみたい)
(口うるさい父親だな)
さんが母親はいいけど)
(今度いってみる?)
(やめとけ、団蔵)
(ほげ?)



























1時間後。








「すごい…」
「なんで終わるんですか?」
「しー。まだ寝てる子いるから」
「委員長も寝てるんですね」
「んー。肩こった。書くのも大変ね。」
「俺、お茶入れてきます」
「いいよ〜。その代り見直ししておいて」
「はい」
「ん…」
「あっ」
?」
「起きた?もう少し寝てたらいいよ」
「あー…今どれくらいだ。」
「一時間くらい」
「じゃあ続きを」
「終わったよ」
「は?」
「終わった☆」
「あれだけの量が終わるはず…は?」
「たぶんあってると思うんだけど」
「今のところ大丈夫みたいです」
「でもすごいですねぇこの量を」
「あはは、母上の宿題に比べたら」






アハハと笑うけど思い出して気持ち悪くなってきた。母上の宿題。それは地獄の宿題。








「この三倍の量の計算さされてたから」
「え?」
「名目は宿題なんだけど絶対面倒だったんだよね、計算して上に出すのが」




アハハと笑っていたら文次郎がむくりと立つ。






「三木ヱ門、左門。今日はもういい。あとは俺がしておく」
「はい。」
「一年坊主を連れてってやれ。」
「はい」
「おやすみ」
「おやすみなさい」





パタリと閉まる音が聞こえる。ちらりと文次郎を見るとぱちりと見直しをしているらしい。
休めばいいのに。と思いつつお茶を入れる。
飲む?と聞いたらああと答えが返ってくる。ご飯は?しいえば食べるとこちらを見ずに帰って くる。
少しさみしいけど。安心する。ふふふと笑うとどうしたと声だけが返ってくる。


「安心した。」
「そーか」
「うん」
「もう遅いから寝ろ」
「あら、ご主人さまが寝るまで寝れないわ」
「は?」



やっとこっちを向いた。と笑えば小さく舌打ちをする。まぁ、これくらいの仕返しはいいわよ ね。











「おかえり」
「おう」















何週間ぶりに言えた。ただそれだけで。




(幸せだ)
(あなたに会えるのならたとえ火の中水の中)
(邪魔にならないように)
(あなたに会いにゆくわ)