くの一はやっぱり信用してはならない。


そんな当たり前のことをすっかり忘れていたのは俺だけではないはずだ。
現に周りがどんどん落ちていくのがわかる。同部屋で噎せ返る様な熱気と嬌声が響き渡る。



媚薬を盛って事に及べばくのたまの勝ち。
それを拒むかイカシきれば忍玉の勝ち。


簡単な方式だがお互い結構やばい。





他の奴らは情事に及んで駆け引きをしているし
仙蔵に至っては逆にくのたまに媚薬を盛り返してドSぶりを披露している。




俺は




「あぁぁっ!!!」
「俺の勝ちだな。」
「っく」
「ったく。何回すれば収まるんだよ」








という話があったのは1週間も前の話。






くのたまを舐めてはいけない。あいつらの加害心は仙蔵と変わらない。
復讐と称してあの時勝ったにんたまに再び媚薬を盛るとは誰も思いつかなかった。













「っああっん」
「また…苛めてほしいのかよ」
「ちがっん」
「このド淫乱」
「潮江っ潮江っん。」
「イきたいならそう言えよ」
「イきたいっ!アア」
「違うだろ」
「イかせてく…ださいっ!!!」
「もうしないか?」
「うんっしないからぁ。はやっく」
「じゃあ行けよ」



一段高い嬌声と自分の限界と乾いた肉を打つ音








「誰かいるの?」
「あぁぁぁぁっん。文次郎っ」
「っ」
「文次郎?」








白濁をくのたまの腹に出した瞬間
あいつの悲しそうな顔が飛び込んできた。









…?」
「ごめんなさい。物音が聞こえたから」
先生?」
「きちんと後片付けするように。あと風邪ひくわよ」
「っ」
「はっはい」








にっこりと笑ってはいるが
明らかにいつもとは違う。




ごめんというくのたまに仕方ないさと一言言ってため息をついた。
色の授業でこんなことをしているのは知っているはずだ。慌てても仕方がない。
気だるい体に制服を着てあいつを追いかける。






(でもあんな顔初めて見た。)





















「何?」
「その…なんだ」
「ん?」
「授業でな」
「知ってる。相手の子置いてきちゃだめなんじゃない?」
「え?ああ」
「早くいった。いった。」
「ああ」







先ほどの顔が気のせいだったかと思うほどはにこにこと笑っている。しかしだ。


「こっちみろ」
「ごめん。これから調合しないといけないから」

「まあ、後でね」
「ちょっと待て」
「授業あるでしょ?早くいきなさい」
「おい。」




振り払われた手







かけていく後姿。








































走って走って
池の傍で蹲る。今日はここで授業はないはずだ。
誰にも会いたくない。かなりひどい顔してるはずだから。





ちゃん?」
「っ」
「どうしたの?こんなところで」
「利吉さん?」
「…」
「いついらっしゃったんですか」
「さっき。父上に届け物をしにね」
「そう…ですか」









誰にも会いたくないのに。
こんな日に限って会ってしまうだなんて神様は意地悪だ。




うずくまった私の横に利吉さんも座る。頬に指を滑らされる。涙をふぐってくれる。
なにも聞かないでくれるのはありがたいけどこういうときはすべてを吐き出したくなるのは私 だけではないはずだ。声を出さずに涙だけ流していたら「強いね」とぼそりと言われた。







「強くないです」
「ん?」
「頭ではわかってるのに心がついていかないとき利吉さんはどうするんですか?」
「んー」
「私は駄目だ。昔だったら大丈夫だったけど今はもう無理かも。」
「なんで?」
「みんな優しいから。心に気がついちゃったからかな?」
「そっか」





そういうと頭に手を置かれる。そういうときは泣けばいいよと利吉さんに言われる。
そしてもう我慢の限界だった。私はボロボロと泣いてしまう。最近泣いてばかりだ。駄目だな と思いつつも止めることができない。




「潮時かな」
「?」
「そろそろ父上と変わって修業に出るかって」
「そうなの?」
「はい。長崎まで。」
「遠いね」
「はい」
「良いの?」
「良くないけど」
「けど?」
「辛いから」
「逃げるんだ」
「逃げたいです。」
「…」










好きな人に抱かれてそのまま眠って朝を迎えて。
そんな事も叶わない
私だけのものでいてほしいけど
それも無理で

あまつさえ他の人と抱き合う姿を見てしまう。








「忍者を好きになるって大変だわ」
「そうかな?」
「はい。嫉妬で狂いそう」
ちゃんも嫉妬するの?」
「あたりまえです。」
「…私は」
「利吉さん?」






君をそんな気持ちにはさせないよと
言われた瞬間垂れた頭を持ち上げて利吉さんを見る。





「好きだよ。君のこと」
「え?」
「君が潮江と付き合った時私も嫉妬で狂いそうだったよ」
「利吉さん?」
「私と共に生きないか?」











と言われた瞬間後ろから強い力で抱きしめられる。















「笑えない冗談ですね、利吉さん」
「やあ、潮江。私は冗談を言わない男だよ」
「探しに来てよかったです。人のもん手出さないでください」
「はいはい。でもいつまでもつかな」
「これからずっとです」

「はいっ」



考えておいてとにこりと笑う。


そして文字通り風の如く消えてしまった。













「文次郎…授業は?」
「…」
「痛いよ」
「さっきの」
「え?」
「本気か?」
「何が?」
「利吉さんと長崎」
「…分からないわ。」
「そうかよ」










そういって抱きしめられた腕を緩めたかと思うと体が反転する。


「なっ何?」
「…」
「文次郎。怖いっ」
「黙ってろ」


風のように連れてこられた場所は忍玉の長屋で。
(どうやら文次郎と仙様の部屋らしい)






ペイっと畳に放られる。








痛いと抗議する前に両腕を畳に押しつけられてそのまま口をつけられる。





「ん…も…んじ」
「黙ってろ」
「あ…んぅ。苦し」
「…」
「っぅあ」






首へと唇を這わされる。ピリリと痛みが走る。痛いと言っても文次郎は何も云わない。
涙が出た。それすら気がついてない。



「えっ。」
「なんでもない」
「何?っああああ!!!」
「見せてやれ。お前が誰のものか」
「いた…い」
「そーかよ。」
「んっう」
「…」
「あっあん。くぅ、もん…じ」





急に体を貫かれ今までにないほど性急に動く。体がギシギシいうのがわかる。
必死に文次郎の背中に手を回す。けどそれを再び畳に押さえつけられる。
目の前には文次郎と天井しか見えない。目がかちあう。



なんで



「なん…で怒…って…」
「解らないか」
「解…らな…いよ」
「なら良い」
「んっあぁ。」





くるりと反転されそのまま貫かれる。獣のような姿。
自分でも聞いたほどのない程に嬌声が上がる。
体がはじける。

目の前がスパークして体が崩れる。



いつもならここで抱きしめてくれるけど動きが止まることがなく
獣のような形は文次郎の動きのせいで崩れに崩れ私は自分の体を肩で支える。




「あっん。んんっ」
「今天井に人がいるぞ」
「えっやぁ」
「淫乱。締め付けるなよ」
「ああぁぁん。ぬい…て」
「お前が締め付けんだろ」
「やぁ、も…んじ」
「みんなにお前の痴態を見てもらえ」
「あぁぁん。っあ。んんんんん」
「ここか」
「だめっ。奥…ぅに…」
「…」
「やん。あぁぁ。んっ。っあ」

「あぁあああぁ。んぁ、はげ…し」
「…」
「文次、こわ…あぁん。やだ、怖い…ん」
「そのままいけ」
「やあ、文次」




文次文次となんどもうわごとのように云いながら
私は嬌声を上げる。

天井に人。そんなことはもう頭のどこになくて
ただ獣のように文次を求めて
弾けて




そのまま果てた。










ただ荒い息だけ部屋に響く。これは私。
文次郎はけろっとして天井に向けて「誰が来たかわかってんだからな」と恐ろしい声でいう。
腹が立つ。


それ以上に








涙が出る。
ポロポロ涙が出る。







「…」
「嫌いなら、そう言えばいいじゃない」
「は?」
「みんなも…私は誰が来てるか分かんないけど」
「…」
「もう、やだ。」






手の甲で涙をぬぐう。
そして




「私、長崎に行くわ」
「…」
「さよなら」
「…ああ」










(私はあなたが好きだったのに)
(俺はお前がいればよかったのに)
((いつからこうなってしまったのだろう?))
















04.大好きと大嫌い

















さん大丈夫?」
「ん…」
「ここに置いておくから薬飲んでね」
「うん、ありがとう伊作ちゃん」



あのあと長次君に聞いて急いで駆け付けてくれた仙様と伊作ちゃんが覗き魔と文次郎に報復し てくれて、私はそのまま高熱を出して床に臥せってしまった。



「来週には父上が来るから」
「わかったよ」
「また手紙書くね」
「私にも書いてくれよ」
「うん。仙様。」



よしよしと撫でてくれる手
仙様の手は男の人だけど華奢で気持ちがいい。


「あの馬鹿は」
「うんん。」
「頑張って学問に励め」
「うん」





優しいみんな
大好きだ。


大好きだけど














(大嫌い大嫌い大嫌い)
(だって私に人の心を教えといて)
(捨ててしまうんだもの)
(大好き大好き)
(それでもみんなが)
(あなたが)




(大好きなんだ)