「あー。。どうしたの?その格好」
「着物よ。それが何か」
「…鬼蜘蛛の旦那とデート?」
「見合い」
「は?」
「みーあーい」
と言った瞬間みよが素っ頓狂な声を上げる。そりゃそうだろう。私には立派すぎる恋人がいる。こいつは良くそれを知っている。
「別れた?」
「うふふふふ」
「わーーーーーーーーーー。泣くな泣くな。」
「みーよー」
「会社のロビーで泣くなよ。嫌がらせか」
「もう灰になりたい」
私の恋人は世界の海運王の元で若くして幹部職まで上りつめた人だ。このみよもそこで働いている。幹部4人衆は全員若いけど…まぁ、すごい人だ。だから忙しい。私も大学の講師をしているから会えるのはなかなかないけど。仕方ないのはわかっているけど。
「もう1か月も連絡ないのよ」
「今忙しいし。あの人仕事人間だから」
「知ってる」
「で、どうして見合い?」
「教授の奥様からの話でね。」
事の始めは1か月前。
お世話好きな教授の奥様が朗らかに登場した。こういうときは大概良くない事を考えている。案の定「さんによい縁談を持ってきたの☆」だと。語尾に☆付けるなよ。もちろん丁重にお断りしたのだ。けど彼女は私が彼氏がいるっていうのを嘘だと思ったらしく、一度大学に連れて来なさいという話になった。大学の創設記念パティーにってことだったのだけれども。結果連絡が取れず。
そうなれば鬼の首を取ったような勢いで彼女の見合い攻撃が始まって逃げれなくなったのがつい先日。
「あー」
「見合いしなきゃいけないから連絡頂戴って言ったんだけどね」
「電話は確認できなかったんじゃない?」
「助けてメールもしたし秘書にもいった」
「う…」
「会いにも行ったけどあえずじまいでさ。秘書の秀作君と仲良くなったぜ」
「そー…かよかったな」
「うん」
し・に・そ・う・だ!と言ったらみよがハハハと乾いた笑いを浮かべる。
そもそもだ。長年の疑問をぶつけてみる。
「みよよ」
「あ?」
「私って彼女だよね」
「そうじゃねぇの?」
「だって。もう半年くらいになるけどあったのは3度でその上合計時間って6時間くらいじゃね?」
「マジ?」
「私が突撃訪問して、話して帰る…みたいな」
「あー」
「どっちでもいいのかしら?」
「鬼蜘蛛の旦那はそんないい加減なやつじゃないぜ」
「でも、優しいからさ。告白して断りきれずずるずるっていうことない」
「あー」
「やっぱり」
「ははは」
「あー…時間だ。行ってくる。」
「で、何でここに寄ったんだよ」
「最後の望みで来たんだけど。」
「…」
「秘書の秀作君が可愛いって褒めてくれてなおかつ写メ取ってくれたわ。KYめ」
「ははは」
「もういい。なんかよく分からなくなった」
「?」
「いい人だったら結婚する」
「まじか」
「うん」
「はっははははは」
笑えばいいさ。
私が一番痛いことぐらいわかってるよ。
じゃあ行ってくると言えばみよが結果連絡しろよと言って手を振ってくれた。
現パロ01.馬子にも衣装
が行って数分後すごい勢いで鬼蜘蛛の旦那が走ってくる。右手には旦那には似合わないピンクの携帯。
馬鹿だ。今見たのかよ。
「みよっ。が来ていただろう」
「今いったよ」
「っ」
「可愛かった。眼福眼福」
「おい」
「元々美人系だからねは。いつもはまともな格好せずに白衣姿が多いけど」
「みよ」
「俺に当たるなよ」
「っ」
「ばかだなぁ。大切なら会ってやればよかったのに。」
「忙しかったんだよ。新しいプロジェクトが」
「、すげぇ勘違いしていったよ」
「?」
「鬼蜘蛛の旦那が優しいから断れなくてずるずると」
「は?」
「良い人なら結婚するって」
「!!?!???!?????」
「馬鹿だなぁ。メールもしたらしいじゃん」
「見てなかった。」
「今見た?」
「ああ」
いってやればと言えば頭をガシガシ掻いてまたエレベーターのところへ帰っていく。
(馬鹿なやつだな。可哀そう)
ホテルのロビーで待ち合わせる。
良さそうな人だ。ぴしっぱしっていう擬音語が似合うスーツ姿。顔もそこそこいい。好みではないけど。
ちなみに私より5つ上で助教授らしい。丸得物件ってとこか?
でもなぁ。
「後は若いお二人で」
「はぁ」
「さん」
「はい?」
「少し歩きますか?」
「えーと」
「それとも」
5012というナンバー付きの鍵。ああここのホテルかな。
でもなんだ。こいつ駄目だ。
懐から鍵を出すなよ。しかもすぐにっていうのが気にいらない。教授がいなくなったら本性出してきたな。
手堅く遊べるとでも思ってんだろうな。バカにしゃがって。
「結構です」
「その気できたんだろ」
「はぁ?」
「妄想彼氏より絶対いいから」
「お頭の程度がわかるわよ。その言い方」
「何だと。」
「はぁ」
一発ぶん殴ろう。でもだ、着物というのはすごく身動きがとりにくい。とりあえず腕を引っ張られるのを振り払えずにいたら
見覚えのあるスーツが私の腕を取った。
「は?」
「見つけた。」
「…」
「うちのがご迷惑をかけました。志豊教授には私からよくお伝えしますから」
「なんで…うちの教授を?」
「仕事柄と申しましょうか。もう数年来の付き合いで」
「あはははは」
「行きましょう。この上で部屋を取りましたから」
「は?」
「さん」
「…いつの間にかいなくなりましたね。保身野郎が」
「さん」
「ありがとうございます。鬼蜘蛛さん。危ないところを助けて頂いて」
「さん」
「お忙しいのに。秘書の秀作君が心配しますよ。ただでさえスケジュールが押してるっていってたから」
「ちょっと。話を聞きなさい」
奴がいなくなったからホテルのロビーで昼ドラ風な口論をしてしまいそうだ。
駄目だ駄目だ。彼は優しいから。こういうことすればまた元に戻るだけだ。
ここは無表情的にとか機械的にと思ったら手をがしりと捕まれて差のままエレベーターの中へ押しいれられる。
「ななななな」
「…」
「ちょっと。」
「黙ってなさい」
「早く帰らないと」
「…」
かちゃりとあけられた部屋。大きなベッド。
そこに投げ飛ばされるように私の体は沈み込む。
一体何なんだ。何のつもりだ。
「鬼蜘蛛さん」
「…」
「ちょっ。着物脱がさないでください。なにするんですか」
「今日は覚悟して下さい」
「はぁ?」
「寝れると思うなよ」
「っ」
「」
「やー。やだ!やめて下さい」
「っ」
「大嫌い。鬼蜘蛛さんなんて」
「…」
「離して」
「嫌いで結構です」
「っん」
涙がボロボロ出る。
(なんで)
(これじゃさっきの奴と変わんないじゃん)
(私は何なんだ)
(ああ馬鹿みたいだ)
心と体がパきばきと音をたてて壊れていった。