あー…のどが痛い
と思いながら目が覚めた。夢なんか見てない。死んだように寝ていたらしく気がつけば昼間をとっくに過ぎていた。カーテン越しに漏れる光が目に染みる。

ふと横を見ると誰もいない。ずるずると起き上がるとペットサイドに朝ご飯らしき物体と半分に折られた紙があるのに気がつく。

『仕事に行ってきます。明日まではゆっくり居ても大丈夫です 鬼蜘蛛丸』








紙を握りつぶす。何が大丈夫なのだろうか?馬鹿にしゃがって。
体中の骨が軋む。涙がこぼれる。




嗚呼、何だったんだろう。









怖かった以上に
悲しい辛い憎悪嫌悪憎い憎い









もう二度と会う事もないだろう。
会いたくないな。好きだったのにな。





優しいのは残酷だ。













携帯電話が鳴り響く。「みよ」とディスプレイされる。




「もしもし」
『うわっ。すげぇ声。』
「喉痛い」
『どんだけ激しかったんだよ。』
「途中から覚えてない。」
『旦那も仕事してるけど鬼気せまっててよ。ちょっと待ってくれよ』
「みよ?」



もしもしと耳に入ってきた声の主は彼らのボス協栄丸さん。
ぼーすーというとひでぇなと返される。


「お久しぶりです」
『今どこにいるの?』
「今はホテルの部屋。今から帰ろうかと」
『ごめんな』
「いやいや。ボスのせいじゃないし」
『あの馬鹿からは俺が良くいっとくから』
「もー会うことないですし。」
ちゃん?』
「でもボスやみよとはまた会いたいな」






耳元でわーわー叫んでいる。声を聞く限り4人衆の他の人もいるらしい。
もういいや。と電源ごと切ってやる。


会う事もないだろう。
何がなんだかよく分からないうちに終わっちまった。



付き合っていたこと自体夢だったのかもしれない。夢ならよかったかな。
馬鹿らしい。



取り合えずだ。





脱がされた服に頭を悩ます。着物をどうしろと。と思ったらスーツが吊られている。
最悪だけれども仕方がない。
今度同じものを買っ…お金を返そう。高そうだけれども頑張ろう。













現パロ02.きしきしと痛む心と体

















さて一週間経った。あれから最悪だった。本当に最悪だ。
1つ目は教授の奥様が仲人をするといって走り出したこと。結婚どころか別れましたっていうのを聞いてくれない。
2つ目は何某教授から丁寧なお詫び文が送られてきたかと思ったらいきなり大学に乗り込んできて奥様と一緒に結婚式どうこうを言い始める。だから別れましたって。
3つ目は日夜大学やら携帯鳴り響くボスたちからの電話。変えても変えてもかかってくるあたりがムカつく。







いろいろ言いたいことを我慢して、今私は鬼蜘蛛さんのオフィスの前にいる。




「あー。ちゃん」
「やぁ秀作君」
「鬼蜘蛛丸さんなら今いるよー呼ぶからまってね」
「ああ。いいの。一刻も早く帰らなきゃいけないようがあるから。これ渡しといて」
「わかったよー」
さん?」








取り合えず私には運とかそういう何かがないらしい。
たまたま出てきたらしい彼と遭遇する。
目がテンになってるよ。初めて見た。




取り合えずだ。平静を装ってではと踵を返す。







「ちょっ」
「…」
さん」
「今日はどうして?」
「先日のスーツのお金をお持ちしただけです」
「は?」
「では」
「まって。あれは、この間のお土産で」
「いらない。秀作君に渡してるから」
「待って」
「仕事忙しいんでしょ?」
「ちょっと」
「あと、みんなに電話やめてって言って」
「は?」
「じゃあね」











がつがつとヒールの音が響く。
と思った瞬間ふわりと空を蹴る。


「きゃぁぁぁぁ」
「話を聞きなさい」
「降ろして」
「だめです。」
「大っ嫌い。」
「私はあなたのことが好きです。秀作君」
「はい?」
「社長の所にアポとって」
「は〜い」








KYがっ!!!ぽてぽてと走りだす秀作君が憎い。
が、それよりだ。初めて聞いた。この人今なんて言った?





「責任はとらせてもらいます。」
「結構です」
「私はあなたが好きですから。」
「…嘘付き」









取り合えずだ思いっきり頭を肘でたたく。
叩くとは生温い音がして私の足は大地につく。



「っう」
「嘘付き」
「良い根性してますね」
「っ!!!」
「こちらに来なさい」
「やだ」


パンプスを脱いで私は走り出す。
理系の女をなめんなよ。すごい勢いで逃げ出す。行き先は一つ。










「みーよーちゃーんっ!!!!!!!!!!!!!!」
「おぅ。電話ぐらい出ろよ」
「助けて」
「はあ?ちょっ」
「鍵閉めるわよ」














みよちゃんは仕事中だったらしく。パソコンから目を離さずに声だけで返事をする。
私はその机の脚元へ逃げ込んだ。