そんなに悲しい顔をしないでほしい。
私は上手く笑えているはずだから。
それなのに君は静かに手を取ってぽろぽろと泣いてしまう。
土井先生も父上もびっくりしていたけれども、一番びっくりしたのは私だ。



さん」
「腕」
「ああ、大丈夫ですよ」



綺麗な眉を少し寄せて眉間に皺を寄せる。
彼女は医務医だから大丈夫とかどうたとか私が云う以前にわかるんだろうな。
大丈夫な傷じゃない。痛いけれども、私にも意地がある。彼女の前で痛いなんて言えるはずが ない。



「伊作ちゃん」
「はい?」
「サラシ持って来て」
さんは?」
「ちょっと利吉さんに大丈夫かそうでないかの傷の見分け方を教えて差し上げます」
「え?」



涙がこぼれたままにこりと笑う。綺麗だけれども本能的に逃げろと。警告音が鳴り響くのに

(私は馬鹿だ)




さん」
「ちょっと半助さん。肩持っていて下さい」
「はいはい」
「お手柔らかにな、さん」
「御子息をお預かり致しますわ、山田先生」
「ちょっ。まっ」






びりりと着物を破られる。
がっちりと土井先生が押さえつけるものだから逃げる事も出来ない。
裏切り者と言ってみても、私は元々さんの味方だよという。
父上を見てもにこにこわらうだけ。


「あー、暴れないで。」
「明らかにそれぶっかけるつもりでしょ」
「あたりまえです。」
「嫌です。大丈夫ですから」
「あら?聞き分けのない子供みたいに」
「…子供で結構です」
「仕方ありませんね」












ギュッと腕を持たれる。
むむむむむむむ胸が。
別に慣れているし任務の時なんかだと平気だけど彼女は別だ。
と思った瞬間激痛。






「っっっつつつつ」
「はい、さん」
「ありがとう。半助さん抑えていてね」
「がっちりと抑えてますよ」
「痛いっ!!!ちょっ」
「やっぱり石が」
「わぁぁぁ。痛いって。さん」
「よっと」
「痛い痛い痛い」
「五月蠅いな」






いきなり酒をぶっかけたと思ったら
そのまま傷口の石を取り出す。
痛み止めくらいしてくれればいいのにと思って叫んでいたら
五月蠅いといわれる。なんなんだよ。痛いに決まってるじゃないか。
挙句の果てには


「ちょっと。勘弁して下さい」
「あー。動くと危ないよ」
「土井先生。助けて下さい」
「ははは(さんの胸なんて役得だね)」
「父上」
「ははは(諦めろ)」
「いっっっっ!!!んぅ」
「!!!」
さん、接吻は駄目ですよ」
「ハイ終わり。あら、伊作ちゃんったら。」
「ちょっ!!!なにするんですか」
「ん?」




くるくると顔色一つ変えずさんはサラシを巻く。
逆に私は真っ赤な顔であ…とかう…とかしかいえない。


「御褒美です」
「いや、さん」
「さっき入れた薬飲んで下さいね」
「へ?」
「あら、気が付きませんでした?」
「薬?」
「痛み止めと熱さまし」
「っっっっ」




気がつかなかったショック(これでも売れっ子フリー忍者なのに)と接吻のショックで半ば意 識を飛ばしていたら額にもう一度キスをされる。


「っ」
「今日は医務室で寝て下さいね。たぶん熱が出ますから。」
「いいです。大丈夫ですから」
「この学園で行き倒れられても困りますから」
「っ」
「解りましたか」
「年下だと思ってからかわないでください。」
「は?」
「利吉君?」












彼女の手を振り払って私はそのまま裏山の方へ走っていった。




「まだまだだなぁ」
「ははは」
「からかっているように見えました」
「若干」
「あら困ったわ。誤解されちゃった。」
さん…ちょっとひどいですよ」
「あら、伊作ちゃん。私のどこがひどいっていうの?」
「全体的に」
「これでも一生懸命なのに。」
「そうなの?」
「半助さんまでひどい。少し気を抜いたら手が震えそうなのに。くの一の子たちと一緒にしな いでください」
さんは忍者じゃないからね。そこら辺があのバカ息子は解ってないから」
「山田先生。」
「もっと攻めてもいいですよ」
「はい」
「(おもしろがっちゃだめですよ)」
「(私は早く孫の顔が見たいんです)」
「でもすごい勘違いしてましたね」
「はぁ…」
さん私より1つ上なのに」
「私って老けて見えるのかしら?」















01.そして私はうふふと笑う









「いけいけどんど〜ん」
さん」
「ひいひい」
「疲れたぁ」
「体育委員がどうしたの?」
「拾いもの」
「こへ…肩に担いで走ってたの?」



ああという小平太の頭をパシリとはたく。


「なっ」
「傷が開いたどうすんの。このバカ犬」
「人がせっかく!!!」
「私に逆らうってぇの」
さん…利吉さんどうしたんですか?」
「金吾〜!!!」
「わっ抱きつかないで下さい」
「可愛いよぉ。乱ちゃんといいは組可愛い」
「はいはい。離れて下さい」
「滝も可愛いよ〜」
さんっ!!!」
「私は?」
「こへは範囲外」
「なんでだよ〜」
「そんなことより。伊作ちゃんこの人運んで」
「はいはい。さん。金吾が苦しそうですよ」
「やだ離さないわよ」





うふふと笑って金吾の頭をよしよし撫でて立ち上がる。
さて、やっぱり熱が出たか。バカだな。夜は冷えるっていうのに



「聞こえますか?」
「…酔った」
「バカ犬に見つかったのが運のつきです。素直に休めば良かったのに」
「父上の部屋に行きます」
「もう。無理しないでください。」
「無理はしてません」
「高熱ですから、ね?」
「ここに照るのが嫌なんです」
「え?」
「父上の部屋に行きます」
「解りました」
さん?」
「私が嫌いなら伊作ちゃんを付けますから」
「へ?」
「伊作ちゃん頼みましたよ」
「はい。さんは?」
「ちょっと痛み止めの薬草とってくるわ。足りなさそうだから」
「ちょっ」
「夜は半助さんのところででも寝させてもらいますから」
「まっ」
「行ってきます。」
「いってらっしゃい」






ああ、腹が立つ。嫌いなら嫌いってハッキリ言えばいいじゃない。
そりゃくの一みたいな色香もなければ仕事先で会うようなお姫様とか清楚な感じもないけどさ 。
仕方ないでしょうがともんもんしながら薬草園へ行っていたら一瞬にして視界が真っ黒になっ た。







土の匂い。





穴掘り小僧めっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!









さ〜ん」
「喜八郎っ!!!」
「駄目じゃないですか〜」
「カワイコぶっても駄目よ。今日こそは許さない」
「ふははは」
「仙蔵までっ!!!」
「伊作と一緒に行けといつも言ってるだろう」
さん大丈夫ですか?」
「兵太夫〜私の心のオアシス。仙蔵とか喜八郎みたいなSにならないでね」
「は〜い」
「助けてやらんぞ」






と言いながら助けてくれる仙蔵にプチプチいう。



「けっ」
「可愛げのない」
「どーせ私は可愛くないですよ」
さんは可愛いですよ〜。私でよければ」
さん大好きです」
「兵太夫〜可愛いよ〜。ブロークンハートの私を慰めて」
さん」




頬ずりをしていたらたらりと首筋を流れた。やばい。
頬を拭ったら血が出ている。




「痛いと思ったら」
「どんくさいな。どれ」
「ぎゃーーーー。仙蔵降ろして」
「とりあえず医務室へ行かんといかんだろう」
「だって」
「?」
「利吉さんいるから」
「は?」
「利吉さん来てるんですか」
「私のこと嫌いらしいから。ここまで出てきたのにって。おい、仙蔵っ!!!」
「(あほらしい)」
「やだやだ。行きたくない」
「おっ仙蔵」
「ギンギンか」
「誰がギンギンだ」
「文次郎助けて。仙蔵に犯される」
「何やってんだ?すごい傷だな(なにしてんだよ)」
「いや、保健室へな(利吉さんが来てるらしい。少々嫌がらせさせてもらう。どうだ)」
「いいな。俺も混ぜてもらおうか」
「ははは」
「ひぃぃぃぃぃ」








疾風の如く仙蔵が走る。私はきゃあきゃあ言いながら仙蔵の背中にしがみついた。