結局だ。あの好きはなんだったのか?
たぶん、熱にうなされて誰かと間違ったんだろうな。
あの後ぶっ倒れたし。治ったと思ったらすぐ出ていったし。
良く良く分からないままもう数週間。
なんだったんだ、本当に。
と思っていたら外からすごい音がする。
なんか落とすような音じゃない。
ちらりと襖を開けてみる。
………………………なんだこの参事。医務所の前の庭が滅茶苦茶だ。
「あーさん隠れてて!!!」
「伊作ちゃん」
「山田親子が喧嘩中です」
「えー。私薬園行きたいのに」
「もう少し辛抱して」
「はーい。っひ」
「早く早く」
庭に出れば忍者の戦いらしい戦いが繰り広げられていて
私を庇うように立ってくれたのはいいんだけどお互い不幸だもんね。
手裏剣が刺さってますよ。足元に。
「さん中に入って」
「わかっ」
たという瞬間顔になんか横切った。
あれれ?あれれのれ?
髪がハラリと落ちて
……もう一つなんか横切った。
顔を触るとぬるりとした感触。
伊作ちゃんが茫然。
私も茫然。
「さん」
「…」
「ちょっ。誰かさらしと水っ!!!」
「…痛い」
「キズ薬持ってきますから。ちょっと待ってて」
「うん。」
「君?」
「ど…い…先生」
「!!!」
「痛いです」
「山田先生っ!!!!!!!!!利吉君!!!!!!!!!!!」
「う…うぐ…」
土井先生も茫然。
当たり前だ。顔に一筋の切り傷。痛い。うっすらという傷口じゃなくて
けっこうぱっくり切れてる。
「あ…あと…なるかな?」
「んー…」
「伊作ちゃん?」
「微妙ですね。」
「………ううううぅぅぅぅぅぅぅうう」
「だっ大丈夫ですよ」
「伊作…ちゃん」
「泣かないで」
顔がぱっくり割れて
悲しまない女がいるはずがない。
いくら私でも顔に傷が残ったらと考えると
涙が止まらない。
うっぷせて泣いていると凄い足音が聞こえる。
名前を呼ばれて顔を上げると
「や…まだ…せんせー…り…吉さ…ん」
「こりゃひどい。すいません」
「すっすいません。本当にすいません」
「伊作どうだ?」
「傷は微妙ですね。まさか毒なんて」
「「塗ってない」」
「ぐすん…」
「山田先生も利吉君も考えて闘って下さい」
「すいません」
「面目ない」
「もう…」
「え?」
「顔も見たくありません!」
「え?!」
涙を拭って立ち上がって
伊作君の腕と土井先生の腕をつかんで立ち上がる。
パタンと言う音とともに
障子を閉めると2人が心配そうに寄ってくる。
「大丈夫?」
「私…土井先生…」
「ん?」
「御嫁にいけないかも…」
「大丈夫だよ」
「ちゃん」
「伊作ちゃん。長次君みたいになったらどうしよう」
「あー…」
「なったらお嫁にいけないよー」
「さんここ開けて下さい」
「さん」
「もう会いたくないっ!!!!!!!!帰って下さい」
「すいません。闘うとつい目の前が」
「言いわけなんて聞きたくありません」
「さん」
「もう…利吉……さんなんて……嫌いです」
そう言ったのが最後。
学園長が2人を引っ張って行って私は傷の手当てをし始めた。
03.私だって女なんですよ
そして数か月。結局傷はうっすら残ってしまって。
タカ丸君のお勧めで高く上げていた髪を下に降ろしてうっすらと化粧をするようになった。
この間利吉さんがやってくるのだけれども全然会っていない。
会いたくない、というのが一番。
「あ」
からりと障子をあけると白い紙と包まれた何か置かれている。
ぱらりと開くと見慣れてきた文字。
ああやっぱり、利吉さんだ。
とりあえず包まれた何かを見ると綺麗な髪紐。
先週は髪止めだったから…タカ丸君に髪型聞いたのかな?
よくよく気のつく人だと思う。流石売れっ子忍者。
「また山田先生に渡しておくか」
怒っているのか?と言われたらもう怒っていない。
傷も何とか目立たなくなったし。よくよく考えてらお嫁いけるような性格じゃないし。
吹っ切れたと言えば吹っ切れた。
山田先生は日参で謝ってくれて、逆に恐縮してしまった。
早々と和解したんだけれども
利吉さんとは無理だ。
会いたくない。
「利吉さん来てましたよ」
「伊作ちゃん」
「もう許してあげたら?」
「怒ってしないんだけど…会いたくない」
「傷ももう目立たなくなったし。化粧して髪型変えたら凄く可愛くなったし」
「お褒めありがとう」
「御嫁にだって行けますよ。」
「あの時錯乱してたけど…私みたいな性格結婚に向いてないよ」
「…まぁ。そりゃ。」
「ふふふ。」
「でもあってあげれば?見てて可哀そうなぐらい落ち込んでるし」
「だって」
「まぁいいですけど」
「じゃあこれ私てくるわ」
「はい」
(あいたい)
(けど)
(あいたくない)
(あいたい)
(あいたい)
(君に会って抱きしめたい)