「父上様。おかえりなさいませ」
「うむ」
「で、負けたのですね。」
「う…む」
様っ!負けたわけではっ」
「幸村も。怪我だらけ…誰それ?」
「は?だれっだと!??この方はな」
「奥州の龍だ」
「あー…っ。奥に連れて行きましょうか」
「頼んだぞ」






にこりと笑って小十郎殿が背負っていた伊達殿を貸してという。
流石親方様の姫御様。にこりと笑っていても有無が言えない。
恐ろしい。べろりっと伊達殿を取り上げたと思うと「村の者を借り出しなさい。私の名を使っていいから」と叫びだす。








「だっ誰だ?この女」
「わ…我が親方様の三の姫様です。」
「武田の姫君?着物が???え???」
「驚くのも仕方ないよね。うちのお姫さんは顔は奥方様だけど性格は親方様似だから」
「佐助?」
「ぐあっ」
「何か言った?佐助。」
「あっあははは」
「早く働きなさい。おバカさん」
「へいへい」
。あまり無体な…」
「父上様も早く母上様のところへお行きなさいって。心配していましたよ」
「う…む……」







(最強なはずなのに)
(あっははっ…はは)










「ひっ姫様?!!!なんて恰好」
「仕方ないでしょ?女ものは動きづらいんだから」
「にしても。また殿方を担ぎなさって。だから嫁の貰い手が」
「五月蠅いなぁ。早く他の者の手当をなさい」
「ですが」
「五月蠅いっ。とっとと行く」
「はっはい」
「そこの右目もっ!!!」
「でっですが」
「まぁ、仕方ないわよね。主君ですもの」
「はい」
「じゃあ、このひと抑えてて☆」
「え?」








そう言いながら姫は伊達殿に酒をぶっかけて針で縫い始める。
(勿論麻酔なんてものはない)






「Ouch」
「男の子でしょ。黙ってなさい」
「小十郎っ」
「武田の姫君です。」
「どっちでもいいでしょ。佐助。酒」
「はいはい」
「shiiiiit」





(あっ死んじゃった?)









「はい、次。」
「ひっ」
「幸村ね。ハイ腕出す」
「ですが」
「幸村。早くはなさい」
「あんた何もんなんですか?」
「私は姫様ですよ」
「じゃなくて」
「ただ、こういうのが得意なだけ」








そう言いながら私の腕を縫い始める。
ここで声を上げてはいけない。何故か?答えは簡単。叫ぶともっとひどい目に会うからで。
必死に声を出さずに耐えしのいでたら、終わりとくるくる包帯を巻いて下さる。


(でもその顔はやめてほしい。)





(そんな悲しそうな顔をしないで頂きたい)







「最近は堪えることができてきたわね。」
「はいっ」
「でも怪我しちゃだめよ。」
「うっ…それは。」
「私はこの世が怪我人や死人であふれるのは好きではないのですから。そちらの人も。」
「は?」
「一寸見せなさい。」
「いやっ私は伊達の家臣ですし。姫御の手を」





と言った瞬間右目の運命が決まった。
(ご愁傷様。)



姫は至極悲しそうな顔をして「身分の上下なんて関係ないんですよ。違いますか?」と言う。
この顔を見たら大概の人は動きが止まる。



しかしだ。この方は信玄様の姫。
一番親方様に似ているという姫御。



一言で言うと





「ぐぁぁぁぁ」
「痛くない。痛くない」




豪快なのだ。







鼻唄交じり。見目は美しいのだが奈何せんやっていることがやっていることだ。
腕が確かなのがせめてものの救いだと思う。
魂が半分抜けた片倉殿が寝そべっている。






「さて、鎧の間に連れて行きましょうか」





ふんぬと姫らしくない声を出しながら姫は伊達殿を抱き上げる。









「ばあや。布団の支度は良いか」
「はい。いつでも」
「では行くわよ。右目」












いろいろ言いたいが
言ったところで何も始まらないだろう。


(なんていう姫君だ)















夜半過ぎ






「あら、まだ起きてたの」
様こそ」




あらあなたが様をつけると微妙ねと言いながらにっこりと笑う。
笑って政宗様の枕ものにしゃがんで額に手を当てる。







「熱はないけど…解熱剤飲んでもらっとくか」
「はい」
「飲むかな?」







懐から竹筒を出す。




「ごっほ…」
「飲まないか」











と云うと姫は薬を一口含んでそのまま口づける。










「!!!!!!!!!!」
様っ。破廉恥でござるっ」
「じゃあかわる?」
「そっそういうことでは」
「じゃあ右目は」
「うっ…」
「じゃあ黙ってて。熱でたら傷が膿む」






















そういってもう一度同じことをする。











「俺はどうすれば」
様はなんといっても親方様の姫君で…性格が一番似ておりまして」
「うふふふふ。」
「ひっ」
「別に取って食いはしませんよ。さて、幸村。右目。そろそろ寝なさい」
「私は」
「私に逆らうか右目。早く寝ないとわかってんでしょうね」
「っっっっっっっっっっっ」
「何かあったら呼びに行くから。早く休みなさい。あなたまで倒れたらどうするの?」
「はい…」
様。様も早く御休みになって下さい」
「あんたたちとたがって私はいつでも休めるから大丈夫」









そういうとやっと女らしく笑う。
(それだけ見たら本当に美しい姫君なのだが)












01.才色兼備 














パタリという音がする。
自然とため息をつく。








「馬鹿ばっかだわ。男なんて」
「shit」
「あら、起きてました?」
「あんなdeepな口づけされたら男ならフツー起きるぜ」
「フフフ。それだけ憎まれ口を聞けるなら大丈夫ね。」
「あんたが有名な三の姫か」









有名かどうか知らないわよと私は笑いながら額に手を当てる。








「あなたももう寝た方がいいわ」
「coolだねぇ」
「静かに寝なさい。」
「おい」
「ごめんなさい。気が緩んだ」













額にぽつぽつと滴が落ちる。
はっと見上げて来る男のことなんて気にせず私は涙をこぼす。












「おいっ」
「忍びを放ったら戦況は芳しくないっていうし。父上様も幸村も…みんな無事てよかった」
「っち。戦国最強の女武者がこんなやつだったとはな」
「勝手に周りが言ってるだけでしょ。私は私よ。泣くし笑うし。」
「そりゃそうだろうけど」
「まぁ、見られたのはあなたでよかった」








ふふふと笑うと罰の悪そうな顔で目を閉じる。
私はサラサラの髪を撫でてみる。


なんとなくだが見られたのがこの人でよかった。
(初めて泣いたんだけどもな)
この人ならきっと言わないだろう。







「不思議だねぇ。」
「何がだよ」
「そのうち敵同士になるかもしれないのにな」
「Han。返り討ちにしてやる。」
「まぁ、そん時はその時ね。今は寝なさい」
「フン。」









髪はサラサラする。
私はそのまま髪を撫で続けると猫のような細い眼をしてそのまま眠る。






「そんなに戦いたいのかな?」
「Ah?」
「いや思っただけ。」
「天下が欲しいからな」
「んー」
「お前は?」
「父上様とみんなが怪我しなけりゃいいわ」









そういって私は笑った。












(馬鹿野郎。そんな顔で笑うなよ)
(武田の姫君なんて)