という昔の夢を見た。
(なんという差だ)
で、今はあの人の執務室で筆を走らせている。
「様」
「はいよ」
「とりあえずご説明いただいても」
見ればわかるでしょ?と言えば小十郎がこめかみを押さえる。
「あなたの主は良い人のところへ行ったんじゃない」
「あなたがこのような事をしたら」
「大丈夫。どんな機密も武田には言わないし」
「しかし」
「じゃあいいこと教えてあげるわ」
「?」
「あの人には秘密ね」と笑うと小十郎は何とも言えない顔をする。
「私はね、武田と伊達が戦うとき出家するって言ったでしょ」
「はい」
「あれ、嘘よ」
「なっ」
「父上様との約束。私はその場で自害する予定だから」
「…は?」
だから大丈夫でしょ?と笑うと小十郎が筆を取り上げる。
「何言ってんだ」
「そう決めたの。でも、あの人には言わないでね」
「政宗様は知らないのですか」
「そっ。いったらいろいろ鈍るでしょ?あっでももう鈍らないか」
「そんなことは」
「人のものになるなんてつまらないと思っていたけど本当ね。」
「様」
ほらあなたも領民の仕事手助けするのでしょ?というとうーとかあーとかしか言わない
傍から見たらあれなのに中は至って真面目なやつめと言いながら私は取り上げられた筆を奪い返す。
あれから一年。
輿入れしてから半年。
世の中が目まぐるしく変わるといっても変わりすぎではないだろうか
あの時の気持ちに偽りはないけれども
彼の愛の言葉は薄利多売らしい。ひどすぎる。輿入れに際して父上様と何度となく戦ったのに。
「様」
「まだいたの?」
「あなたは武田の時と変わりませんね。」
「かわってたまりますか。」
「普通こうなったらふさぎこむと思うのですが」
「私がふさぎこんだら仕事がたまるわよ」
「それはご勘弁を」
「優秀な嫁でうれしいでしょ」
「はい」
「よろしい。」
「様も息抜きにどうですか?」
「行ってもいいの?いつもぐちぐち五月蠅いくせに」
「むっ…」
「行かせて頂くわ。というかこのままどっかに行こうかしら?」
「それははやめて下さい。」
「おいしいものが食べたい」
「何がよろしいんですか」
「じゃあ鍋でもつつきましょう。」
「良き酒でもお持ちいたしましょう」
「ありがとう」
酒をお渡しするのではなかった。というのが小十郎の後日談だ。
「あははは」
「小十郎…どういうことだ」
「ここまで弱いとは」
「そこじゃない。なんでがお前に抱きついてんだよ」
「五月蠅い独眼竜。あんたなんてどこでいっちゃえ。どうせ私のとこなんて帰ってこないくせに」
「Shut up とりあえずそこから除け」
「様。お願いします」
「やー。こじゅもいい体してるわよね。」
「は?」
「んー…」
「やっやめて下され」
ただ抱きついていたのが膝の上に乗ってこられぎゅぅぅぅぅと抱きしめられる。
(むっ胸が当たる。)
「てめっ覚悟はいいんだろうな」
「五月蠅い。はくどっか行け馬鹿。」
「shit お前は俺のもんだ」
「日に一度顔を合わすかどうか分からないやつよりこじゅの方が良い。」
「う…」
「様。政宗様は執務」
「美しい花のところへ行くのも執務?」
「う…」
「いいもん、あなたが嘘つきなのはここに来た時から知ってたもん」
「あなたとかうそつき呼ばわりっていい度胸してんじゃねぇか。俺は名前がちゃんとあんだよ」
「独眼竜」
「っっ」
「やー。こじゅ助けて」
「様。お願いでございます。降りて下さい」
やーといってより一層抱きつく。目の前の方からはひしひしと殺気が…
「愛様のところへ行けばいいじゃない」
「Ah?嫉妬かよ」
様が顔を埋めているところが暖かくなる。
ああ…泣いていなさるのか
ため息をついて政宗様に目くばせする。
「」
「知らない」
「そうかよ」
「うん」
若いお二人には余裕がないのだろう
とりあえず政宗様が出て行ったあと様の背中をさする。
「ごめん、こじゅ」
「その呼び方はやめて下さい。酔いはとうに覚めたのでしょ?」
「だって私だけ馬鹿みたいじゃない。」
「正室の件は」
「知ってる父上様からの条件でしょ?でも私は」
白無垢着たかったなと様は静かに言った。
ふいに上げた顔が濡れていて大きな瞳からぽろぽろと涙が流れる。
「さて、と」
「どこへ行かれます」
「内緒」
と様が少し笑って襖を開ける。
月影が目映く光って黒髪を照らす。不覚にも美しいと思ってしまう。
(いつもはじゃじゃ馬なくせに)
きっとまた誰も知らないところで涙を流されるのだろう
「こじゅ。」
「その呼び方は」
「片倉小十郎」
「…は」
「おやすみ」
「は?」
バイバイと笑って
彼女は扉を閉めた。
06.半年という長い日々
「?」
扉を開けても誰もいないる。
女中に聞いても誰も知らないという。
「hey.はどこだ」
「自室でいらっしゃるのでは?まだここには」
「隠してないよな」
「なぜ私が」
「そりゃそうだ」
様が消えた
(仕方なかったことかもしれないけど私は白無垢着たかったな)